ここで、米国でよく比較対照に使われる「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーイズム」に注目したい。前者は疾病により欠勤している状態であり、後者は出社こそしているものの、何らかの疾病で業務遂行に障害が起き、労働生産性が下がっている状態をいう。このプレゼンティーイズムのもたらす影響が著しく大きいことを示すデータがある。
米国ダウ・ケミカル社で1万人の社員を対象に、アレルギーや喘息、うつ病などのうち、仕事への影響の頻度を4段階で聞いたものだ。
その結果、全社員の総労働時間のうち、約20%の時間において、業務遂行能力になんらかの障害が出ていることがわかった。つまり、社員が健康に支障をきたすことによって、本来ならば遂行できたはずの仕事の80%しかできていないことになる。
これを金額に落とし込んだものが図表1である。グラフには、最も医療コストがかかる10大慢性疾患に対する社員一人あたりの平均支出が表されている。医療、欠勤(アブセンティーイズム)、業務遂行障害(プレゼンティーイズム)の3つのコストのうち、治療にかかる医療費や欠勤による損失よりも、プレゼンティーイズムによる損失が大きなコストになっていることがわかる。
例えば、花粉症を含むアレルギーの項目を見てみると、社員一人あたりの年間平均損失額は約7000ドルで、うちプレゼンティーイズムが約5000ドル、頭痛はおよそ9000ドルのうち約6000ドル、うつ病は最も損失額が高く、約1万9000ドルのうち、プレゼンティーイズムは1万5000ドル以上を占めている。間違いなく、生産性損失の最も大きな要因は、うつ病だ。意思決定、コミュニケーションまたは顧客との頻繁な接触が要求される職種などでは、損失がさらに増加する。
この数字に、各疾患にかかっている社員の人数をかけることで全体の生産性損失コストが計算できる。ダウ・ケミカル社の場合、この計算方式で年間一人あたりの平均損失コストが1万ドル近くになることがわかった。これは人件費の10.7%にあたる。しかもそのうち7000ドル相当が、プレゼンティーイズム、すなわち出勤はしているけれど、体調不良を感じている社員が生み出すものだとわかった。