ほかにも効果的なプログラムに、エンプロイー・アシスタンス・プラン(EAP)がある。これは、従業員支援計画で、例えばなんらかの問題を抱えた従業員が、いつでも電話で相談できるという仕組みだ。お金に関する問題や、家族問題、精神的な問題、薬物依存の問題など内容は問わない。従業員の秘密を保持するために、社外委託で実施している会社も多い。これは本当に有益な防衛線になっており、実際にカウンセラーに相談もできる。
PTSDなど、心的外傷を受けた人へのグループセッションやカウンセリングなどの治療は、他国と比べて進んでいる。20年前はそういったことを公にする動きはなかったが、今はオープンに言うようになった。というのも、そういった病気による社会的コストがあまりにも高いことがわかったからだ。
もう一つの予防策としては、社内に健全な文化を培う取り組みだ。ストレスのない職場や、人を尊厳を持って扱うような職場。仕事とプライベートのバランスを率先して取れる職場の環境づくりだ。こうした健全な社風が、うつ病患者を減らすとされている。
社員の健康促進プログラムに取り組む職場では、ここに挙げたフェニックス市やダウ・ケミカル社のほかにも、ユニオン・パシフィックという鉄道会社や、プロクター・アンド・ギャンブル、インテル、マリオット社などは優れた健康管理プログラムを推進しているとして評価されている。社員の健康に投資する姿勢は、企業全体のイメージアップにもつながり、優秀な人材の獲得にもつながる。
企業の生産性を上げるには、人的資本の効率を上げることが基本中の基本だ。そのためには社員一人ひとりがより効率的に仕事をこなせる環境を用意することが重要になる。アレルギーや頭痛対策ももちろん必要だが、その中に家族と過ごす時間を増やすことも入れるべきだ。知識やスキルと同様、健康な体や精神も「人的資本」の構成要素だからだ。
たった一人の健康が損なわれることが、グループ全体の生産性を下げることもある。新しい時代の雇用者は、従業員の健康を新しい視点で捉えてほしい。CSRの一環として、社員の健康推進運動を進めている会社は増えているが、しなかった場合のリスクや損失を考えると、これはCSRどころの騒ぎではなく、利益に対してもっとシビアな問題だということに気づくだろう。
特に日本のような少子高齢化社会では、老人はもっと健康になる必要がある。彼らを生産性の枠から失うことは国にとって大きな損失だ。彼らに職場復帰をしてもらうためにも、慢性疾患の予防や管理が大切だ。