論語を読むのに最適な本は?

『論語』は全文を読み下したような本格的な本もありますが、初心者には不向きです。入門書としては、東洋哲学者の安岡正篤先生が執筆した『論語の活学』(現在絶版)や、『論語に学ぶ』がいいでしょう。

明治時代の実業家・渋沢栄一の『論語と算盤』の現代語訳版や、SBIホールディングスCEO北尾吉孝さんの『ビジネスに活かす「論語」』も良い本です。こうした本では、論語の中で語られる言葉の背景や、孔子が置かれた状況などを解説しているので、言葉の意味をより深く理解することができます。

孔子は多くの弟子に支持されていたけれども、実は不遇な立場に置かれることが多かったということが安岡先生の本には書かれています。孔子は決して、誰もが一目置く大御所的な「スーパースター」ではなく、辛酸を舐めることも少なくなかったことを踏まえたうえで論語を読むと得るものが増えるのです。

例えば、冒頭に登場する、有名な「学びて時に之を習う、亦よろこばしからずや」。「習う」は、安岡先生の解釈によれば、「羽」と「白」から構成されていて、これは鳥が飛び立つ様子を表しています。つまり、「習う」とは自分が持っている力を実践し、発揮するということ。

全体としては、いにしえのよき教えを学び、実践することは喜びである、という意味になる。

こうした表現は、不遇な立場にあった孔子が言ったからこそ重みが増します。

政治や経営でも、「実践できる」立場にあることを当たり前と考えるのではなく、「幸運で有難い」ことだと認識している謙虚な人物こそが「君子」(学識・人格ともにすぐれた人格者)だと読み解くことができるのです。

ほかにも論語には、「利によりて行えば怨み多し」のように、「利」を戒め、「義」の大切さを説く部分など、ビジネスに即通じる言葉がたくさんちりばめられています。「義」は人として当然あるべき道の意。「利」は利益のこと。

昔から「小人」は、つい目先の小利を追って結局は失敗してしまう。きっと読者の皆さんにも心当たりのある人がいるでしょう。利は義の結果なのです。

そうやって、自分の状況と照らし合わせて、しっくりくる言葉をメモして覚えておくと、今後、仕事の調子がよく有頂天になっているときや、逆にうまくいかず打ちひしがれているときに、『論語』の言葉をベースにして、自分自身を客観的に眺めるもうひとりの自分をつくることができます。