小売り・流通を席巻するコンビニ。「なぜ、こうも強いのか」と社内の雑談で話題になった。議論を進めるうちに「時間価値」という概念が浮かび上がってきた……と著者はいう。

松岡真宏(まつおか・まさひろ)
1967年生まれ。東京大学経済学部卒業。主に流通業界のアナリストとして野村総合研究所、バークレイズ証券、UBS証券で活動。2003年より産業再生機構マネージングディレクター。カネボウ、ダイエー再生に携わる。07年フロンティア・マネジメント社を共同で設立し代表取締役に。

「スーパーのように広い売り場を歩き回ることなく、レジの長い列に並ぶ手間もない。商品が割高でもコンビニが優位なのは、その時短が理由ではないかと考えたのです」

このような消費者の時間短縮ニーズを、著者は「節約時間価値」と呼んでいるが、その時短を生む現代の主役がスマホだ。今、多くのビジネスパーソンは、朝の通勤電車内でニュースや仕事関係のメール、SNSのメッセージをスマホでチェックする。

「スマホは、いわば携帯パソコン。どこでもオフィスになりえます。それは空間と時間を細切れにして、従来のすき間時間を有効利用できるようになったことを意味します」

では、そのようにして生み出された「細切れのすき間時間」は、ビジネスをどう変えるのか。そこが証券アナリスト、経営コンサルタントとして活躍してきた著者の本領。「時間価値」をキーワードに、近未来に起こりうることをマクロ的な視点で読み説いたのが本書だ。

たとえば、すき間時間を仕事に当て、さらなる効率化を図ろうとするのが従来のビジネスパーソンの習いだ。が、逆にそれを自分の楽しみのために使いたいとも欲している。

そのニーズを著者は「節約時間価値」に対し「創造時間価値」と位置づける。そして、細切れに利用できるようになったすき間時間を埋めるサービスには、今後は「創造時間価値」に対応したものが増えると予測している。

「この領域のサービスは、不特定多数ではなく、特定多数が対象。スマホとSNSの普及により、共通の好みでセグメントされた層に、情報、商品、サービスを届けられるようになってきていますから」

すなわち、零細企業や個人でもアイデア次第で勝ち組になれる新しい「時空ビジネス」のシーズが、そこには多様に潜在しているというのである。

だが、留意したい点も。

「すき間時間が埋まるとは、翻せば自分の大切な時間を『使わされている』ということ」だと著者。時間価値への意識は、自分にとっての幸福な時間の使い方を再考する契機にもなる。本書は単なる“時短のすすめ”本ではない。

(永井 浩=撮影)
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