ブランドとは企業と顧客との「交流の場」である
相手の顔が見えない、つまり不特定多数の顧客を相手にするとき、「人を媒介とする営業」対応はコスト面で許されない。そこで、次善策として「ブランド」を媒介として用いる。ブランドとは、たんに商品名というのではなく、企業と顧客との間に築き上げられた「交流の場」と、ここでは考えている。
図1に示すように、消費者は、ブランドに対して期待や夢を抱く。もちろん、時には不平や不満という形をとる場合もある。一方、企業は、「そのブランドにふさわしい技術や製品とは何か」を探し求める。つまり、「消費者の期待や夢を集める一方で、企業自身の方向づけを与える場」がブランドによってつくられる。見えない顧客を相手にするマーケターの課題はこれだ。
コカ・コーラもネスレも、ソニーもアップルも、P&Gも花王もロレアルも、フォルクスワーゲンもホンダも、世界に名だたる消費財メーカーは、マーケティング努力の大半をこの場をつくることに注力してきた。そして、それらの企業は、みずからを「ブランドの束」と見なしている。われわれが「ソニーという名前を聞いてどういう商品を思い出しますか」と問われて思い出すのは、ウォークマン、バイオ、プレステといったブランド名なのだ。以下の議論を先取りして言うと、ブランドづくりがないと、顔の見えない顧客相手のプロセス・マネジメントはできない。逆に言うと、成熟期に対応したマーケティングをやるためには、まずもってブランド構築が必要なのだ。
顔の見えない顧客相手のプロセス・マネジメントは、ブランドを場として行われる。企業のマーケティングの最大の課題は、その場に対してどれだけ投資をするかの判断を誤らないことだ。そのために、ポートフォリオの手法が用いられる。
製品ないしは事業ポートフォリオという手法は、読者の皆さんにはおなじみかもしれない(※)。企業を「ブランドの束」として経営する企業では、ポートフォリオはブランドを単位として行われる。たとえば、花王には、アタックやビオレなど40を超えるブランドがある。それぞれのブランドのパワーが測定され、それらのパワーは、自社の他のブランド、同一市場の他社ブランド、あるいは過去の自身のパワースコアと比較される(図2参照)。
たとえば、ブランド・パワーが劣っている、言い換えると「交流の場の魅力」が衰えていると、その回復のために資源が投下される。逆に、パワーが優位にあって揺るぎがないのであれば、投資は控えられる。つまり、そうしたパワーの比較を通じて、それぞれのブランドにどれだけ資源を投下するのかが決められる。
それぞれのブランドにどれだけ資源を投下するかだけでなく、どの局面に投資するのかもこのフレームから明らかになる。
※製品ポートフォリオ
・・・・・・社内に複数の製品を持っているとしよう。それらを、それぞれの、(1)市場成長の軸と、(2)市場シェアの軸とで評価する。成長性の高い市場にあってシェアが高い製品はスター製品。成長性は低いがシェアが高い製品は投資が少ない分、お金を稼いでくれる「金の成る木」。成長性は高いがシェアが低い製品は、利益を生まず投資だけが嵩む「問題児」。そして、成長性もシェアも低い製品はその存在すら意味のない「負け犬」、といった仕分けが行われる。この分析により、社内資源の製品(事業)間での配分が行われる。