くすぶる「投げ過ぎ問題」

「投げ過ぎ問題」は一昨年の甲子園センバツ大会、準優勝した済美のエース安楽智大くんが3連投を含む全5試合に登板して計772球という投球数を疑問視する声が噴出して表面化した。その後、「球数制限」導入をめぐる議論も巻き起こった。甲子園がゴールではなく、大学、社会人野球、プロ野球へのプロセスと考えれば、投手の肩やひじのけがを防ぐのは当然だろう。

米大リーグ機構は昨年、次代のスター投手をつぶさない「ピッチ・スマート」というガイドラインをつくった。7歳から18歳まで、年齢別に投球数が定められており、さらにその投球数に応じての休養期間も定められている。例えば、17~18歳だと、一日の上限は105球となっている。

年齢によって、骨や筋力の発育具合がちがう。ガイドラインの拘束力はなくとも、指導者が投手を育てるときの目安とはなるだろう。時代とともに指導法も規則も変わっていくものだ。「肩がぶっつぶれてもいいから投げろ」という指導はもはや通用しない。

たしかに東海大相模など豊富な人材が集まる学校は特別との意見もあろう。ひとりのエースを育てるのに苦労しているのに、ふたりの投手をつくるのは無理と。だが、それでも指導者の意識次第で現場は変わる。元プロ野球投手の友はコトバを足す。

「高校野球の指導者にとって、2枚、3枚のピッチャーをつくって勝つということが常識にならないと、これからの日本の野球界の発展もないでしょう」

野球界にとって、野球少年や高校球児は“宝”である。けがをしにくい指導法やひじ肩検診、けがのリスクを避けるチームづくりは、野球の指導者にとってマストなのだ。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。
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