ラモスも府知事も吉野家で牛丼
今、世の中で一番必要なのは「GNN」と「TTP」。GNNは「義理、人情、浪花節」で、TTPは「徹底してパクる」(笑)。これがある会社は絶対に伸びます。僕は「飲食の京セラ」になりたいし、ブックオフの頃も「古本屋の京セラ」でありたいと思っていたので、今も京セラや稲盛さんの真似をしています。
ただ、それも実地で真似しなければ意味がない。しかし真似には相当な技術が要ります。例えば、ある店の美味い蕎麦と同じものを、別の店のそば職人が作ろうとしてもなかなかできない。フランチャイズもそう。加盟店に「本部の優秀店舗がやっていることを真似ろ」と言っても、優秀な加盟店なら一生懸命真似ようと努力し続けるが、そうでない店は勝手なやり方をした揚げ句、ほかに行っちゃうんです。
稲盛さんの“実践”例を一つご紹介しましょう。あるとき、稲盛さんがサッカー選手のラモス(瑠偉、現FC岐阜監督)さんを食事に誘ったのですが、訪れたのは牛丼の吉野家だった。最初はそれぞれ「並・ツユだく」を食べ、その後「牛皿」1皿を追加して2人で食べた。一つずつ食べていくと最後の一切れが残る。稲盛さんは「どうぞどうぞ、お食べください」と勧めるわけです。そこまで言われたら、相手は食べますよ。残った一切れを自分にくれたことに恐縮しながら。
これ、凄いでしょ。当時、「並」は380円、「牛皿」が120円だったと思いますが、このコストで相手に「自分のために大切な時間をつくってくれた」という印象が残るんです。別の機会に京都府知事を招いたのも、吉野家だったそうです。僕なんかがやったら蹴飛ばされそうだけど、稲盛さんがやるとサマになりますね。
どんなにいいことを知っていても、実際に真似したり実践する人は少ない。でも稲盛さんは、「費用を最小に、効果は最大に」という誰もが知る言葉を、このような形で実践しているんです。肝心なのは、こういう話を「知っている」だけか、実際に自分も「やっている」か。実践し血肉化していけば、組織も活性化していきます。
もっとも盛和塾でも、「誰にも負けない努力」「人間として最も必要なことは人のために尽くすことである」といった稲盛さんの言葉を、自社の社員にそのまま話しているだけの塾生もいます。「おまえたちさ、経営者のつもりになってみろ」「社長になったつもりで働け」「社長のつもりになって勉強しろ」とか。でも、それは単に他人に要求しているだけなんですね。社員は経営者じゃないですよ。まずは自分からやらなきゃ。
1940年、山梨県生まれ。諸事業を経て90年、ブックオフ創業。91年、ブックオフコーポレーション設立。2007年同社退社、09年バリュークリエイト(現俺の株式会社)設立。11年、東京・新橋に「俺のイタリアン」オープン。その後もフレンチ、和食バージョンを次々と展開。