そして、67年のモデルから変更を余儀なくされたのが時計側面のカーブです。当時の手巻きから自動巻きにしたことで、どうしても厚みが増してしまう。これをできる限り薄くしながらも、着け心地をいかに高められるかが最大の難関でした。思案を重ねた結果、たどり着いたのが人の手首の形に沿うような時計のカーブです。腕時計のデザイナーは平面でスケッチを描くことが多いのですが、私の場合は側面のスケッチを描き、細かく照らし合わせていくことでこのカーブを導き出し、装着性と同時に見た目の美しさを実現していきました。
こうしてできあがったのが、「グランドセイコー メカニカルハイビート36000GMT限定モデル」です。難題をクリアし、高い技能レベルを反映できたのは、製造部出身のデザイナーという私の経歴が関係しているのではないでしょうか。鍵になったのは職人とのコミュニケーションです。たとえば2種類の試作品を前に、より作りにくいほうを選ぶのは、作り手にとって手間のかかるものがユーザーに望まれるものだと思うから。「難しい? だったらなおさらいいものになるから、やってみようよ」と一緒になって技術の限界に挑戦していくのです。ある意味で、職人たちを「その気にさせる」ことこそが、私の仕事なのかもしれません。
誕生から55年、30カ国で愛される日本最高級時計
写真は2014年6月に600本のみ限定発売された「メカニカルハイビート36000GMT限定モデル」。14年度ジュネーブ時計グランプリ「小さな針」部門賞を受賞。15年4月現在、ほぼ完売。1960年に誕生したグランドセイコーブランドは現在、世界約30カ国で展開する。
小杉修弘(ウオッチデザイナー)
1952年、横浜市生まれ。73年、林精器製造デザイン室入社。93年セイコー電子工業(現セイコーインスツル)に入社。デザインを手がけた「グランドセイコー SBGR051」では、2010年グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞。14年にはデザイナーとしては初の「卓越した技能者(現代の名工)」に選定。
1952年、横浜市生まれ。73年、林精器製造デザイン室入社。93年セイコー電子工業(現セイコーインスツル)に入社。デザインを手がけた「グランドセイコー SBGR051」では、2010年グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞。14年にはデザイナーとしては初の「卓越した技能者(現代の名工)」に選定。
(ウオッチデザイナー 小杉修弘 構成=矢倉比呂 撮影=佐藤新也)