「平均点主義」と決別ダントツ商品で勝負
コマツの製品開発に「ダントツ商品」というスローガンがある。先々代の社長・坂根正弘(現・相談役特別顧問)が、経営改革の目玉に掲げたものだ。
彼は自著『ダントツ経営』において、それを<ライバルに負けてもいいところ、あるいはライバルと同じぐらいでいいところをあらかじめ決めておき、その分、強みに磨きをかける>手法と定義している。坂根は従来のコマツを覆っていた「平均点主義」からの脱却をこのスローガンによって宣言し、以後の開発の基本姿勢とした。
その中で開発された技術に「コムトラックス」がある。2001年からすべてのコマツ製建機に標準装備されたもので、エンジンコントローラー、ポンプコントローラーなどの情報を随時データセンターに送り、GPSによって建機の置かれている場所、稼働状況、燃料の残量といった情報を代理店と現場の顧客が共有できる仕組みだ。
コムトラックスは遠隔操作でエンジンをかからなくすることもでき、もともとは建機の盗難防止のために考えられた機能だった。当時、盗んだ建機でATMを壊す犯罪が相次いでいたことも背景にあった。だが、そのメリットは彼らが想像する以上に大きかった。
建機の稼働状況は、経済動向と密接な関係にある。坂根は、2004年の中国での経済引き締めの際、稼働状況の急速な落ち込みを察知して工場での生産を早期に止めることもできた、とも回想している。現在、コマツは全世界に散らばる38万台(2015年5月末)の建機の稼働状況を把握し、その膨大なデータは建機の保守管理、稼働管理、帳簿作成といったサービスの提供だけではなく、次世代建機の開発にまで活かされている。