【田原】おもしろい。森川さんがそういう夢を持っていたとは知らなかった。LINE時代からそんな野望を持っていたのですか。

【森川】じつはもっと前からです。もともと日本テレビ時代に三菱商事さんと組んで、国際放送のプロジェクトを立ち上げたことがあります。アジア向けにジャイアンツ戦とNNNニュースを配信したのですが、成功したのは、当時、巨人で活躍していた呂明賜の母国である台湾だけ。世界で成功するためには、日本人が出ている番組ではなく、いろんな国の人たちが出ている番組をつくらなくてはいけないと痛感しました。

【田原】そうか。メディアの世界展開に失敗したことがあって、今度はそのリベンジだ。

【森川】ちなみにその後に転職したソニーでも、トヨタさん、東急さんとジョイントベンチャーをつくって動画配信ビシネスに挑戦したことがあります。このときはブロードバンド世帯数が20数万しかなくて、動画配信をやるには早すぎました。

【田原】それも含めると、今回の起業は3度目の正直ですね。今度は勝算ありですか。

【森川】モバイルで動画を見る時代は確実にやってきます。モバイルのインターネット速度は速くなったし、スマートフォンのカメラ機能も向上しています。まだ少し早いかもしれませんが、いまのタイミングで準備しておけば、波に乗りそこねることはない。今度は是が非でも成功させたいですね。

田原さんへの質問:新しいサービスを成功させるには何が必要?

【田原】まず消費者に知ってもらわないと始まらない。そのためには何でもいいから話題をつくることが大切。森川さんが言うように「スターをつくる」のはいいやり方だと思う。まだテレビが普及していなかった時代、人々は力道山の試合を見るために街頭テレビに群がった。スターを見たいという気持ちがきっかけになって、大衆はテレビに初めて触れたのです。

動画メディアも、スターが誕生すれば視聴者が増えるはず。スターといっても、王道のヒーローである必要はありません。いまのテレビは無難な人しか出ない。そこから弾かれた人たちが出て活躍したら、テレビに物足りなさを感じている人たちの心をつかめるのではないでしょうか。

遺言:そこでしか会えないスターをつくれ

田原総一朗
1934年滋賀県生まれ。県立彦根東高校卒。早稲田大学文学部を卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。幅広いメディアで評論活動を展開。
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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