【野村】企業のフューチャーセッションでいま問い合わせが多いテーマはダイバーシティです。ダイバーシティの推進って、多様な幸せを企業の中でも実現しなければいけないので、いままでのようにひとつのゴールを決めて効率的にすることができないのです。最適解がない状態の中で、社員の皆さんが「自分ゴト」としてダイバーシティを考えて、自分にとって、そしてこの会社にとって何がベストなのかということを考えないかぎり、結局は誰かが不満を感じる結果しかでてきません。

【神田】ダイバーシティのゴールって人それぞれですからね。

野村恭彦氏

【野村】だからこそここでのファシリテーションの目的は合意形成ではなくて、一人ひとりの互いに認め合い、助け合えるような関係性をつくりあげること。数値的なものではなく、まさに行動している状態こそがゴールなんですね。いま行政から、企業における女性活用が求められていて、役職についている女性の割合を増やせという号令がかけられていますが、じゃあ役職についた女性のパーセンテージがどれくらいになればみんなが幸せになれるのかは誰もわかっていません。

【神田】いままでのマネジメントのパラダイムでは、目標を決めてそれをブレイクダウンして、PDCAをまわしてっていうことをしていますよね。これはたったひとつの答えがある前提です。ここが大きく変わってきていますね。

【野村】先日、あるグローバル企業からダイバーシティの相談を受けました。非常に業績のいい会社です。その会社はダイバーシティについての理解もあり、たとえば親の介護がはじまれば、フレキシブルな働き方が認められています。でも高成長の会社だけに「フルコミットできないなら社内での評価が下がっても仕方がない」という社風が一方ではあるんですね。そうするとフレキシブルな働き方と高い評価がトレードオフになってしまう。ある意味で優しい会社だけど、社員によっては、その優しさはうれしくないんです。

【神田】それは本質的にはダイバーシティとは言えないかもしれませんね。

【野村】そうなんです。そして話を深めていくと、「ダイバーシティを推進するにはどうしたらよいか」ではなく「どんな立場に置かれても、この会社で、自分らしく成果を上げ続けていくにはどうしたらよいから」という問いについについて考えるべきだいうことに気づきました。そのためには、社員だけでなく、その社員の家族も含めた対話が必要でした。これからのリーダーが考えなければいけないのは、ある定義された範囲での最適解を見つけることではなく、この中に最適解はないかもしれないという前提に立って、問題の構図を広げて新たな関係性のなかから最適解を見つけることです。