患者さんの目的は「とにかく治ること」

「期待を持たせすぎてはいけない」と説く専門家の言い分も、もちろんよくわかります。

しかし現場の医師から言わせてもらうと「希望がない」という言葉は何ももたらしません。

まずは「治った方が意外といるのだな」という認識をもっていただくことです。そして本書を心の杖として「道を探し続けること」を実践していただければと思います。

最後に、本書に対する専門家からの想定されうる批判に対する私なりの答えを書いておきます。

「本書に出てくる事例は、単なる『一例報告』ではないか。より大規模な数の被験者を、5年、10年と追跡し、『逸脱した事例』が生じる確率まで、詳細に割り出すべきではないか」

しかし、がん患者さんにとってみれば「精度の高い、緻密なデータ」よりも治る手がかりをみつけることのほうが先決です。患者さんの目的は「とにかく治ること」、これに尽きます。

「5年も10年も、正確なデータを待っていては間に合わない」という現実があることを、私たち医師は忘れてはなりません。

もちろん、患者さんに無闇な期待を抱かせるだけで終わってはいけません。

しかし本書に登場しているような「逸脱事例」が、「高額宝くじの一等賞に当選するような、天文学的に低い倍率」でないことは確かです。

岡本裕(おかもと・ゆたか)
医師、医学博士。1957年生まれ、大阪大学医学部、同大学院医学部卒業。麻酔科、ICUの研修を経て脳外科専門医になり、悪性脳腫瘍の治療に取り組む。細胞工学センターでがんの免疫療法、遺伝子治療の研究を行う。その後、現在の医療・医学に疑問を持ち、仲間の医師たちと「21世紀の医療・医学を考える会」を設立。 2001年から、本音で応える医療相談ウェブサイト「e-クリニック」(http://www.e-clinic21.or.jp/)を運営する。
(構成=山守麻衣)
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