「地域のアンテナ」保健補導員の伝統

松川村に続く男性長寿2位は、神奈川県川崎市宮前区である。松川村と東京のベッドタウンである宮前区に共通点があれば長寿の秘訣を考えるヒントになるはず。松川村役場の福祉課長と地域包括支援センター長を兼任する白沢庄市さんはこう語る。

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なぜ医療費が低く、医者が少ない長野が「長寿日本一」なのか

「長寿県である沖縄もそうなのですが、宮前区も出生が多いのが長寿の一因なのではないかと考えられます」

平均寿命とは、発表されたその年に誕生した赤ん坊の平均余命のこと。死亡率などをもとに算出されるため、年齢構成に偏りがないほうが平均寿命は長くなりやすい。

では松川村はどうか。農村というと過疎や高齢化をイメージしがちだが、松川村は違う。1920年に行われた第1回の国勢調査以降、人口が増え続け、2000年に人口1万人を超えた。長野県で2番目に大きな村である。ちなみに町村制施行以来、一度も町村合併はしていない。

周辺の自治体に比べて積雪が少ない。18歳まで医療費が無料である。交通の便がよくて松本市や安曇野市に通勤できるなど、村の魅力に惹かれて若い世代が移り住んでくる。そのおかげで年齢構成のバランスがいい。それが、長寿の理由だろうか。

「健康長寿の要因をひとつに絞ることはできません」と白沢さんは念を押す。

男性長寿日本一になってから、松川村に多くのメディアが取材に訪れた。しかしなぜ長寿なのか、はっきりわからない。記事にならないと肩を落として帰っていく記者もいた。これから地元の信州大学と連携して健康長寿の要因について調査研究していくというが、いまはまだ謎が多い。

「一人ひとりの村民の健康や生活の問題なのではないでしょうか。大切なことは、健康な生活を送る家庭が増えて、持続していくことなのですから」