日本企業で欠かせないビジネス慣習のひとつが朝礼だ。昭和の昔、サラリーマンの仕事は朝礼、ラジオ体操、上司の精神訓話から始まった。月日が流れ、体操と精神訓話は姿を消しつつあるが、朝礼には時代を超える効用があるのだろう。いまもビジネスマンたちは朝から元気に声を出している。
近畿地方一円の中小企業に税理士サービスを行うトリプルグッド税理士法人は商人の街、大阪・船場に本拠を構える。社会保険労務士法人などを加えたグループは6法人、メンバー84人。「働きがいのある会社」ランキングで例年上位(2013年は中小企業の部3位)を占める優良企業でもある。
税理士法人の代表理事でグループ代表の実島(みしま)誠氏が1997年に設立した個人事務所がグループのルーツ。税務申告の代行にとどまらず、さまざまなアドバイスを提供することで関与先1200社の「存続」に力を尽くしている。
「私が独立したばかりのころ、父の会社が倒産して関係者にたいへん迷惑をかけました。職人気質の父は採算割れで受注することも珍しくなく、赤字経営を重ねてしまった。赤字は倒産の引き金です。私たちは利益を出し続けるお手伝いをしているのです」(実島氏)
朝8時50分、朝礼が始まる。事務所8階の空きスペースに50人超が集まり、大きな輪をつくった。まずは新人メンバーのリードで、グループの大方針を「ミッション!」「中小企業の100年経営で日本を元気に!」という具合に全員で唱和する。みな大声で、元気がいい。
大方針の次は「クレド」だ。クレドとは会社運営の基本方針を意味し、グループには27項目におよぶクレドがある。これを全員で唱和したあと、1項目について当番のメンバーがエピソードを披露する。「クレド・トーク」という。
この日のテーマは、クレドの6番「脱自分視点」。当番の若手メンバーが「私たちの提案は本当にお客様のためになっているか、自分の都合ではないかを考えたい」と述べると、理事の奥村龍一氏がクレドにまつわる訓話をして締めくくった。所要時間は約8分。
トリプルグッドの社名の由来は、売り手よし・買い手よし・世間よしの「三方よし」。近江商人が広めた企業存続の真理である。クレドとは、このことをより具体的な言葉で説いたものといっていい。創業以来見直しを重ね、いまのクレドは「メンバー主導のプロジェクトチームで1年半検討して2年前にできたもの」(実島氏)。同社では実島氏以下全員が蛇腹に折りたたんだコート紙のクレド・カードを持ち歩く。自社の理念を伝えるとともに、取引先にもやんわりと「三方よし経営」を勧めるためである。