グローバル時代に、地方はどう生き残るのか

北陸新幹線の福井開業が遅れているのはゆゆしき問題だと書きましたが、一方で、世界がグローバルにつながる時代に、東京と新幹線でつながることの重要性も次第に薄れていくと思います。セーレンは1990年代からグローバル化を積極的に進め、現在では世界22拠点に広がっています。2年前からは、社内で国内と海外の意識をなくすため、それまで海外出張に必要だった役員の承認を不要にし、国内出張と同じ扱いにしました。海外との距離が近くなったことで、社員の視野が広がり、やる気も高まったようです。

東京ばかりに目を向けるより、もっと自分たちのよさ、福井のよさに目を向けることがこれからの時代には大切だと思います。福井にはいまだに昔ながらの田園風景が残っています。おいしい空気と水、食べ物も福井の自慢です。祖父母、親、孫が一緒に住む三世代同居が多く、これが「幸せ」の要因とも言われています。三世代同居が多いこともあり、一世帯あたりの平均収入は800万円と日本一、一世帯あたりの金融資産も国内で2番目です。

都会で見られる通勤地獄もありません。セーレンの社員の場合、通勤は大体車で30分以内です。残業もほとんどなく、夕方5時には皆さっと帰り、家族と食卓を囲みます。これが東京なら、会社に行くために1時間以上も満員電車に揺られ、高い家賃を払い、汲々としながら生活しているサラリーマンも多いでしょう。それに比べて、自然の近くでゆったりと暮らせる福井での生活は、幸せ度が高いと思います。

こうした幸福度は、地元に住んでいるとなかなか実感しにくいかもしれません。しかし、近代化や便利さが求められる一方で、これからはこういった幸せの価値が見直されていくのではないでしょうか。都会にはない福井のよさをもっとアピールし、地元の人や県内出身者のみならず、多くの人にとって「住みたい場所」にしていく。これが福井創生には欠かせないと考えています。

川田 達男(かわだ・たつお)
セーレン会長兼最高経営責任者
1940年、福井県生まれ。62年明治大学経営学部卒、同年福井精練加工(現セーレン)入社。87年社長就任。2003年より最高執行責任者(COO)兼務。05年より最高経営責任者(CEO)兼務。05年に買収したカネボウの繊維部門をわずか2年で黒字化させる。14年より現職。セーレン http://www.seiren.com/
(前田はるみ=構成)
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