日本の家電のアジアでの再挑戦に限らない。グローバル化を進めていくなかで企業は、避けがたく2つの現実に直面する。各国・地域での販売を伸ばそうとして、企業が現地適応化にのめり込んでいけば、事業のグローバル化がもたらすはずの競争優位は確立できなくなる。逆にグローバル化による競争優位を享受しようとして、標準化と調整を進めていけば、現地適応化が犠牲となる。
グローバル化の2つの現実をめぐり、国際マーケティング研究では数々の論争が繰り返されてきた。この論争からの教訓は、企業はひとつの行動原理にのめり込んではならないということである。
では、どうするか。標準パーツの組み合わせで多様な機能を実現する「モジュラー方式」、あるいはベースとなるプラットホームを標準化する「共通プラットホーム方式」などはグローバル化にともなう業務の道筋を構想する手がかりとなろう。
戦略的な事業定義を行い、グローバル化による標準化や調整の利点を享受しやすくするという手もある。それなりの規模の企業であれば、グローバルな事業展開を進める際には、市場環境の違いの小さい国・地域に優先的に参入したり、こうした違いの影響を受けにくい製品・サービス領域――たとえば一般に食品は、嗜好の国・地域差が大きいことで知られるが、なかにはワインのように標準品を世界中で販売できる領域もある――をグローバル化の主軸にしたりすることを考えるべきなのである。
ビジネスでは、相対立する現実を見落とさず、それらを併せ呑んだうえで次の一手を考えなければならない。これはグローバル化に限らず、ビジネスの多くの局面で必要となる基礎教養でもある。
(時事通信=写真 平良 徹=図版)