京セラを設立したとき、私は27歳の技術者でした。新しい製品を開発すること、それを生産に移すこと、そして、当社の製品が世の中の役に立つものとして認められれば、会社を立派にしていけるだろうと考えていました。

しかし、経理については門外漢でした。そんな私にできることは、とにかく売り上げを1円でも多くすることだけだったのです。しかし、それではよい経営にはなりません。会計システムを確立し、原価、費用などの細かい数字を把握し、経費を最小に抑えることで、利益を上げることが、会社継続の源泉だからです。

豆腐屋さんの商売を考えるとわかりやすいと思います。一丁売って何十円儲かるという大変厳しい商売です。豆腐づくりは早朝からはじまります。前日から水に浸しておいた大豆を臼でひき、それを煮て搾り、豆乳をつくります。そこにニガリを入れて固めて、包丁で四角く切り分ければ商品になるわけです。

さて、その後に売値を決めますが、それには豆腐を一丁つくるのにかかるコストがわからなければどうしようもない。大豆とニガリの購入費用、燃料費のほかに人を雇っていれば賃金も発生する。さらに、製造機や水槽の減価償却も考えなければなりません。

私は「値決めは経営者の最も重要な役目のひとつである」とつねづねいっています。なぜなら、売り手にも買い手にも納得を与える値段でなければ商売はなりたちません。そのためには絶妙の経営感覚が求められるのです。

強硬な値引きの要求をされたら

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全社員が売り上げと利益を意識すれば連携できる!

そうしてつくった豆腐は、店頭で小売りもするし、量販店にも卸します。ところが、スーパーが豆腐を特売の目玉商品にしようとすると通常より安く買い叩かれます。原材料や燃料費が上がっているときなど頭を抱えてしまいます。

おそらくスーパーの担当者は「いつもは一丁98円の豆腐を今回は76円で店頭に並べたいので値引きしてほしい。数量も普段の2倍注文するので、ぜひ協力してほしい」などといってくると思います。だが、それでは原価割れして損が出てしまう。それでも、ほかの豆腐店と天秤にかけられて、泣く泣く値下げに応じるという店が大半でしょう。

もちろん、商売には「損して得とれ」という言葉もあり、今回は目をつぶり、次で儲けさせてもらうという考え方もあります。とはいっても、シビアに原価計算ができていないと、どこまでなら値下げしていいか、判断をくだせません。そんな事態を避けるためにも“経営のための会計”を体得しておくべきなのです。

稲盛和夫
1932年、鹿児島市に生まれる。55年京都の碍子メーカーである松風工業に就職。59年4月、知人より出資を得て、京都セラミック株式会社(現京セラ)を設立し、現在名誉会長。第二電電企画、KDDIの設立、JALの再建にも携わる。
(岡村繁雄=構成)
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