多くの人は、自分は理性的だと考えている。しかし人は案外、ヒューリスティックに物事を決めている。価格もその一つで、直感で「安い」「いや、高い」と判断されやすい。そこで生じる認知バイアスを利用すれば、値上げによって顧客が感じる痛みを軽減することも可能だ。

実際によく使われているのがアンカリングだ。アンカリングとは、最初に与えられた情報が印象に残って基準点(アンカー)となり、その後の判断に影響を与える効果のことを指す。

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「第一印象」の効果を利用しよう

例えばある中華料理店に、1万円のAコースと、8000円のBコースがあったとする。この2つを比べると、Aコースは高いと感じる顧客が多いだろう。そこで、新たに1万4000円のSコースを設定して、メニューのトップに持ってくる。すると、Sコース1万4000円がアンカーとなって、Aコース1万円が安く感じるようになる。これがアンカリング効果だ。

ただし、アンカリングが効きやすい商品とそうでない商品があるので要注意だ。消費者が「だいたいこれくらいの価格が相場だろう」と思い浮かべる価格を参照価格というが、参照価格がはっきりしているものはアンカリングの効果が薄い。

例えば消費税率引き上げ後、缶コーヒーは130円が定着しつつあるが、アンカリングのために高価なプレミアム缶コーヒーを発売しても、価格の印象はほとんど変わらない。逆に参照価格がはっきりしていない商品やサービスは、アンカリングの効果を期待できる。例えばビューティサロンや高級レストラン、コンサルティングなどのプロフェッショナルサービスなどが該当する。

値上げの研究者 菅野誠二
早稲田大学法学部卒業後、スイスのIMDにてMBA取得。ネスレ日本、マッキンゼー&カンパニー、ブエナビスタを経て、ボナ・ヴィータ設立。ビジネス・ブレークスルー大学教授。著書に『値上げのためのマーケティング戦略』など。
(構成=村上 敬)
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