現場の声にこそ成功のヒントがある
しかし、これだけでは高度で複雑な課題を自律分散的に解決する「組織体」は生まれてこないだろう。そこで、「ハードガバナンス」以上に重要となるのが後者の「ソフトガバナンス」だ。例えば、海外M&Aが終了した後に、その効果を十二分に引き出すためには、買収対象となった企業側のトップや幹部から「グループの一員となることで企業の成長が加速する」といった評価を得るだけではなく、グループのファミリーとして、ともに「世界で伍していくグループ」を目指していこうと思ってもらえるようなレベルにまで経営理念の共有を図る必要がある。
SOMPOホールディングスでは、目指すグループ企業像やそれを実現するためのプロセスを共有するための仕組みとして、海外現地トップを中心に約30人が一堂に会する「グローバルサミット」を毎年開催している。ここでは、たとえば、中期経営計画で実現すべきSOMPOホールディングスの姿の確認や、「Center of Excellence」の観点から先進的なリスク管理ノウハウをグループで共有していく方法など、さまざまなテーマについての議論を重ねているが、新たな知見の獲得という意味では、グローバル化の進んでいる欧米企業の経営管理手法を学ぶ側面が強いのも事実である。
そこで私は、この会合であらためてSOMPOホールディングスのコアコンピタンスである“現場力” (“Gemba-Ryoku”)について語った。別の機会にある社外取締役から聞いたことであるが、「いまやVoice of Customer、つまり顧客の声を聞けというのは古く、Voice of Gemba、現場の声にこそビジネス成功の解がある」のだという。まったく同感である。今は日本の保険会社が主導している"現場力"が、グローバルにグループ内に浸透した時こそ、SOMPOホールディングスが「世界で伍していく」ための準備が整ったといえるだろう。
1956年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、安田火災海上保険入社。2010年に損害保険ジャパン社長に就任、2014年9月より損保ジャパン日本興亜会長。12年より日本興亜損保との持ち株会社NKSJホールディングス(現・損保ジャパン日本興亜ホールディングス)社長を兼任。