「押し売り」がダメなら「押し買い」がある
長年、詐欺・悪質商法をウオッチして思うこと。それは一時期、隆盛を極めた「手口」は、警察の摘発や多くの人の警戒感とともに一端は下火になるが、一定の時を経て、再び形を変えて猛威をふるいだすということだ。特に、巧妙な手口であるほど前回とは180度真逆のやり方をしてくる。
悪質商法における最大の特徴は、強引な販売方法にある。
たとえば、以前に頻発した「押し売り」被害。被災地から来たという業者が「復興支援のために魚を買ってほしい」と家を訪問する。対応に出た女性に対して、業者は玄関先で「試食だけでもしてくれませんか」とお願いをして、魚のかつおを切り分ける。
それを食べた女性は、被災地への支援という思いもあり「少しくらいなら買おうか」と考えて、600円ほどの切り身を買うことを申し出た。すると、業者は「もうこの魚は商品にならないから、丸ごと1本買ってくれ」と言いだす。そして「買うまではここを動かない」と凄み始める。
切り分けた刃先鋭い包丁をすぐ横に置いての押し売り行動に家人は怖くなり、かつお1匹を丸ごと購入してしまった――。そのような相談が消費者センターにたくさん寄せられ、大きな社会問題となった。
▼宝飾品を売らずに、買う
その後、登場したのが、貴金属などを強引に買い取られる「押し買い」による被害である。
これは、業者が「いらなくなったアクセサリーの鑑定をします」と家庭を訪問し、執拗に手持ちの指輪などの宝飾品を見せるように依頼。最終的にそれを二束三文の不当に安い値段で買い取るという手口だ。
その際、業者は「このアクセサリーは偽物です」と嘘をつくこともある。また、「使わないものを持っていても、仕方がない。今が売り時だ。早くしないと損をします」と、消費者が断っても玄関先に居座ることもある。結局、根負けして、業者の言い値で売り渡してしまう。この押し買いに対する法的規制が2013年になされたが、今もなお、被害は起こり続けている。
契約するまでは、帰らないという強引さは変わらないものの、以前の宝飾品を「売る」形から、購入した貴金属を転売して利ざやを稼ぐ「買う」という180度違う手立てに変化させている。消費者としても、金を取られるのではなく、金をもらえるために、業者の言いなりになってしまいがちなのである。