ワルはアドリブ的な会話ができる

なぜ、オレオレ詐欺への警戒心が高まっているにもかかわらず、詐欺被害件数は増え続けているのか。誤解を恐れずに言えば、それは、ワルはワルなりに“創意工夫”をしているからではないか。技を日々習得しなければ、アウトローの世界では食っていけないに違いない。

「会社の金を使い込んだので、穴埋めをしなければ、クビになってしまう」

地方在住の女性のもとへ息子を装う男から電話がかかってきた。

「息子はそんな悪いことをする人物ではないし、息子の声にしては少しおかしい」

機転を利かせて、電話の相手にこうカマをかけた。

「お前の話は、オレオレ詐欺みたいだね」

もし詐欺犯ならば、この言葉に動揺するに違いないと思ったのだ。しかし、相手は慌てる素振りもなくこう答えた。

「そうなんだよ。なんだか偶然にもオレオレ詐欺みたいな状況になってしまってね(笑)」

その落ち払った様子にこの女性は、相手が本物の息子で「本当に、お金が必要なのだ」と思いこんでしまった……。

▼「そうなんだよ」と、一度受け入れる

ここでは、詐欺犯は相手の疑念を巧みに包み込んで返答する手立てを使った。

高齢女性の言葉に反論することなく、「そうなんだよ」と一端受け入れたうえで、その疑念を包み込むような「オレオレ詐欺みたいになってしまったね」という言葉で切り返した。これにより、高齢者は相手の言葉を信じる方向に誘導させられてしまったのだ。

ビジネスの場でも、相手から批判的な言葉が出てくることはよくある。

その時に、どのような態度を取るかで交渉の成否が決まる。営業先で、こちらの意見を受け入れてもらえないと、つい「いいえ、そうではなくて」「でも、◯◯なんです」などと、すぐに反論したがる人がいるが、それでは話の終着点が見えず、交渉の決裂さえありえるだろう。

相手の批判じみた発言には、まずこちらが一端、譲歩することが必要だ。といっても、本当に引き下がるのではない。引き下がる姿勢をみせる。そうすると相手は、こちら側の譲歩した姿に、自分の反論が相手の心に響いたと満足する。しかし、実際はその言葉への切り返しをする準備時間をもらっているだけなのである。