まず、占いに来た時点で、何かに悩んでいるに決まっている。だから、最初の一言は「あなたは何か悩んでいますか」がいい。テレビの番組などで、悩みもないのに冷やかしにくる場合もあるだろうが、そんなときは「そんな人を騙そうというやつだからウソを教えたんだ」「真剣味が足りない」「人生で悩み事がないなんて馬鹿げてる」等々の因縁をつけて激怒し、早々に退散したほうがいいだろう。捨て台詞はもちろん「こんなことをしていたら君の周りで不幸が起きるな。その不幸は君がこんなことをしたせいで起きる」がいい。
さて、相手をビビらせてからは、よくよく相手の話したことや格好を観察し、どういうことを言ったら相手が自分をすごい人間と思うかについてのみ考えればいい。いちいち相手の悩み事に真剣に取り合ってもしょうがない。ハッタリをかまし、相手を敬服させることに注力するのだ。
そこで、さきほど例に出したのは、「あなたは目に何か問題を抱えている」という指摘だ。メガネをかけているのだから当たり前だ。そのあとに白内障を指摘できたのは、「錯覚が見える」と相談者が漏らしたからだが、たとえそれが外れたとしても「白内障に将来なるから気をつけてほしい」と話題をそらせばいいのだ。
ひと通りハッタリで話が弾んだあとは、「あなたは、本当は弱気な人間なのに強がってしまう」「繊細に周囲からは見られているが、大胆なところがある」などと、誰にでも通じるようなことを指摘し、「これまでの人生大変でしたねぇ」と同情し、「これからは、私に相談すれば大丈夫ですよ」と畳み掛ける。これで帰ってくれれば楽なのだが、相談者が「では、どうすれば人生は好転するのですか」「この悩みを解決するにはどうしたらいいですか」と面倒なことを聞いてきたら、水晶を覗き込んだり、手相を見て、しばし、無言になる。そして、「これは難しい……」とボソリ。あとは「北の方角に吉兆があります」「赤に気をつけなさい」等々でお茶を濁すのがいいだろう。
占い師ではなく、相談者のレベルほど事態を知らなかったり、専門的知識がなかったりしても、アドバイスの技術があれば相手の相談に乗ることは可能だ。
逆に、いくら知識があっても損ばかりしている人がいる。なぜ、知識をたくさん身につけているのに、交渉事に負けてしまうのだろう。主導権を握られないのだろう。各国の大統領や首相ら政治的リーダー、世界を代表する大企業のトップ、そして大富豪と呼ばれる人たちが学者並みの知識があるかと問われれば、「否」と答えるだろう。それぞれの分野でエリートと呼ばれ、人の上に立つようになるには、学者の論文に書かれているような専門的な知識は必要ない。むしろ必要なのは、溢れかえる情報を実践に応用できる感性のようなものだ。