なぜ、リフレで円が安くなるのか。為替レートは2つの通貨の総量の比に応じて変動する。中央銀行が金融を緩和すれば、その通貨の量は増え、安くなるからだ。このため金融政策は、それが実行されればもちろん、変化が予想されただけで為替レートにダイレクトな影響を与える。
中央銀行が供給する通貨の量を「マネタリーベース」と呼ぶ。日本の為替市場関係者は、2国間のマネタリーベースの比を示す表を、通貨取引で有名な投資家ジョージ・ソロスの名を取ってソロス・チャートと呼び、売買の指標としている。
円安と並ぶリフレ効果が、「予想インフレ率の上昇」である。“物価は下がってゆくもの”という予想が“これから物価が上がる”に変わると、それに応じて人々の行動が変わる。モノやサービスが値上がりするなら、「待っていると損」とばかりに、消費や投資が増えるのだ。日銀が2%というインフレ目標を宣言した意味は、ここにある。
予想インフレ率が上がると、株価も上がる。これは、海外の投資家の間で「予想インフレ率が上がれば投資と消費が増え、企業の収益が増加し、実質金利も下がるので投資も増え、株価が上がる」ことが常識となっているためである。
このため為替と同様、大々的な金融緩和による予想インフレ率上昇が予測されただけで、株式市場に大量の買いが入り、実際に株価が上がってゆく。13年の1年間で日経平均株価は57%上昇し、41年ぶりの上昇率を記録している。
同じように予想インフレ率アップで不動産価格の上昇も予測されるため、値上がりを見込んだ買いが入って地価も上がっていく。これは現在、特に東京都心部で顕著だ。
金融緩和で地価、株価が上昇すれば、それを所有する企業や個人にとっては融資が受けやすくなる。銀行からみた担保価値が大きくなるためだ。それは投資や起業を容易にし、雇用を拡大し景気を好転させる。
また、これまで企業や家計に眠っていた資金が株や不動産へ投資されることは、お金が1カ所に留まらず移動することを意味する。市中の通貨の量が一定でも、投資が活発化すると通貨の流通速度が上がり、企業や家計の収入が増えて景気が回復するのである。
デフレ予想がインフレ予想に変わることは、現実の経済にこれほど大きく影響する。