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図2 雇用者報酬は前年比プラス幅を拡大

GDP統計の「雇用者報酬」をみると、安倍政権誕生以降、順調に増加している(図2参照)。正社員の給料の伸びは鈍くとも、残業代が増えたり非正規雇用を中心とする雇用が増加し、企業から支払われる賃金の総額は増えているのである。アベノミクスによる景気回復がこのまま続けば、今後は正社員の給料も本格的に上がっていくはずである。

同様に、予想インフレ率が上がっても銀行貸し出しがあまり増えていない、という批判も聞くが、企業はデフレ期間中に手元に資金を積み上げており、景気拡大の初期段階では、投資するにも借金はせず手元のフリーキャッシュフローを取り崩す。銀行貸し出しが増えないのはそのためだ。さらに投資額が増え、手元のキャッシュで賄い切れなくなったとき、初めて貸し出しの増加が始まるのだ。

消費税率を10%に上げないで本当によかった

1997年以降、日本で長きにわたって経済の停滞が続いた原因は、一にかかって日銀の金融政策にあった。デフレを払拭するのに必要な金融の緩和が行われなかったため、人々も企業もお金を手元に抱え込んでしまい、国内では投資も消費もふるわず、外需に頼ろうにも企業は円高という重いハンディを背負わされることになったのだ。

リーマンショックの際は、欧米各国の中央銀行が景気てこ入れのために、こぞって大々的な金融緩和に踏み切った。ところが、日銀だけがその動きに追随しなかったため、為替レートは急激な円の独歩高に傾き、金融危機などなかった日本が世界で最もひどい景気後退に陥ってしまった。半導体のエルピーダメモリや日本航空の経営破綻も、極端な円高で価格競争力を失った影響が大きい。

日銀OBには、経済が好転した今でさえ、「円安もデフレの解消も景気回復も、アベノミクスと関係ない」と言い張る人が少なくない。「とにかくリフレは効かない」とひたすら信じ込んでいるのだ。

14年にソウルで開かれた「世界知識フォーラム」のパネルディスカッションでは、リーマンショック後に適切な金融緩和を行わず日本に深刻な不況をもたらした白川方明前日銀総裁が登場し、同じく金融引き締めで韓国経済の低迷を招いた金仲秀前韓国銀行総裁や、利上げでユーロ経済を沈滞させたジャン=クロード・トリシェ前欧州中央銀行総裁とともに、量的緩和の問題点をあげつらっていた。私はその後の講演で、「これでは韓国国民がかわいそうだ」と話し、白川前総裁との仲直りはできなかった。