社会人も常に学び直す必要がある

「世界最高レベル」が見えている(ソチ五輪スキージャンプ日本代表のメダリストたち)。(写真=AFLO)

スポーツや音楽、芸術の世界では、チャレンジ目標や将来のビジョンを描きやすい。たとえば若きバイオリニストがロン=ティボー(国際音楽コンクール)で優勝しようと思えば、中学ではこの先生に習って、高校ではこの先生に師事して、この大学からフランスに留学して……という具合に目標に至る道程がスーッと見えてくる。スキージャンプやバレーで日本人が活躍しているのも、世界最高レベルがどんなものなのか見えているからだ。

大学教育を「見える化」することで、「よし、自分はこの大学に進んでコンピュータサイエンスで生きていこう」というような目標を持つようになれば、中高生の勉強は相当に加速するだろう。アメリカには宇宙飛行士を養成する学校があって、宇宙飛行士を目指す子どもは高校段階からすでに宇宙物理学や生理学などを学ぶのだ。スマホセントリック、スマホ生態系の時代には、ターゲットが定まれば勉強も加速しやすい。大学をモラトリアムで過ごすこともなくなって、相当なレベルまで職能が身につく。そうなればIITのように「名札」や「値札」もついてくる。

前回(http://president.jp/articles/-/14856)も言ったが、大学は「稼ぐ力を身につけるための高等職業訓練所」と割り切るべきだ。大学教育をそのように変えていくなら、現状の推薦入学の制度は改めるべきだと思う。数IIIまで勉強しないで工学部に入ってきてもついていけないし、職能に追い込むレベルにない。それから今の中学教育、高校教育は将来の選択肢を広げるという建前で、いろいろなことを教えすぎている。大学進学を想定するなら、もっと絞り込んで、学ぶ内容を掘り下げるべきだ。

もう一つ、これからの大学の役割として社会人教育も挙げておきたい。大学で学んだことなど5年後には役に立たなくなる。今の世の中は、社会人になっても常に学び直す必要があるわけで、卒業生のアフターケアと生涯学習の機会を提供することは大学の極めて重要な役割だと思う。

社会人が受講できるオープンカレッジは数あるが、現状は大学生き残りの手段として使われているようにしか見えない。実際問題として、課長になる一歩手前で自分の能力や知見をアップグレードしたいビジネスパーソンに、最先端の経営ノウハウを教授できる先生が今の大学にどれだけいるだろうか。

ビジネススクールお得意のケーススタディやフレームワークでさえ、所詮は過去の知恵でしかない。そこから踏み出して、今の社会に役立つことを教えられる先生がいないのも、大学教育の大きな課題だ。私は自分の大学・大学院で毎週「リアルタイム・ケーススタディ」をやっている。今集められるすべての情報を駆使して自分が当該会社の社長ならどうするのかをクラスで討議させ、最後に私自身の解決策をみなに説明している。同じケースを何年も使っているような教授からはビジネスの実務は学べない。もし挑戦したい教授がいるなら私のオンライン教室に「道場荒らし」に来ることを歓迎する。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
【関連記事】
文科省提言「G大学・L大学」は、若者をつぶす
「35人学級」とは誰のために必要なのか
子どもを「伸ばす親」「つぶす親」の共通点5
「名門校」は単なる進学校と何が違うのか
教養より「就職力」をつける! ビル・ゲイツが考える大学像