「がんもどき」というのは、病理検査で「がん」と診断されても、他臓器に転移していないため放っておいても死なないがんだ。これに対し「本物のがん」は、すでに転移が潜んでいるため、治療しても治らないがんだ。「本物」は、がん細胞が生じて間もなく転移するので、初発巣が発見できる大きさになったときには、転移巣は潜んでいても、相当の大きさに育っている。そのため初発巣を早期に発見しても転移巣を含め、がんを治すことはできない。

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がん細胞の分裂、がんの一生とダブリングタイム(DT)

がんの転移する時期は放置患者の観察、分析から、「本物」は初発がん発見のはるか以前に転移していることがわかる。他方、がん発見当時に転移がない「もどき」は、放置しても初発巣から転移が生じないことが確認できた。この転移するがん、しないがんというのは、がん細胞が生まれたときに決まっている。早期発見というが、実はがんの一生からすると、熟年というか、すでに老境にさしかかっているものを発見している。というのもがん細胞は2分裂して、ねずみ算式に増えていく。この頃は1センチのがんが見つかったときに「早期がんです、おめでとう」というのが流行らしいが、がんにとっては早期ではない。がんが1センチの大きさになるまで、30回ねずみ算を繰り返している(図参照)。がん細胞の大きさは1ミリの100分の1の10ミクロン。これが1000倍の1センチくらいになると、がんのシコリとして認識できるようになる。消化管のがんだと内視鏡で見えるようになるし、肺のレントゲン検診でも写るようになる。その1センチのがんの中には10億個のがん細胞がある。

それではがんが1センチになるまでには何年かかるのか。それぞれの人のがんは、誕生してから一定の速度で分裂していると考えられている。だからその速度がわかれば、がんがいつ頃できたかがわかる。がんが1回分裂するのにかかる時間を、英語でダブリングタイム、日本語では倍増期間とか倍加期間というが、がんの直径が10倍になるには10ダブリングしたと考えることができる。こうした計算によって、その人のがんの一定期間の成長経過を見れば、がんの発生時期がわかる。その結果からも、本物のがんが早い段階から転移していることは明らかだ。