私はこの20年以上、「抗がん剤は効かない」「がんは切らずに治る」「健診は百害あって一利なし」「がんは原則放置しておいたほうがいい」と言いつづけてきた。

私の言う「がんを放置しておく」ことには、2つの意味がある。1つは発見がんを治療しないでそのままにしておくこと。もう1つは体の中にがんがあるかもしれないが、それをわざわざ探し出さないで放置しておくことである。後者は要するに、がん検診や健康診断、人間ドックなどを受けてがんを探さないこと。人間ドックなどで健康な人に見つかるがんは、痛いとか、苦しいといったがんによる症状がなかったものだ。そういうものを見つけるだけならいいが、見つけるとたいてい手術をしたり、抗がん剤治療をして、だいたい寿命が縮まる。あるいは、見つけて「がん」と宣告されただけで精神的にも相当なショックを受けるからだ。「がんの放置療法」をおおまかにわかってもらうために、まず私の診療方針を示しておくと、(1)がんが発見されたという1事では、早期がんでも転移がんでも治療を始めない。QOL(日常生活の質)を落としている症状がある場合に、治療開始を検討する。(2)症状がなくても、治療を希望する人は少なくない。その場合、合理性を失わない限りで治療する。(3)がんを放置して様子を見る場合、診察間隔はがんの進行度による。早期がんなら6カ月に1度、進行がんや転移がんなら3カ月に1度程度の間隔で診察を始め、徐々に間隔を延ばすようにする。(4)がんが増大するようなら、あるいは苦痛等の症状が出てきたら、その時点で治療をするかどうか、どういう治療にするかを相談する――というものになる。

それでは、なぜがんを放置しておくのか。それを理解するために、がんには「本物のがん」と、「がんもどき」があることを理解してほしい。これは放っておいても「無害ながん」と「有害ながん」に分けられると考えてもいい。検診で見つけるようなものはだいたい無害ながんで、放っておいていいものだ。今日ではいろいろな治療法があるので初発病巣のがんそのもので亡くなることはかなり珍しい。がんで命の消長に直結するのは、他臓器転移だ。