数字は、自分なりに立てた仮説を検証する道具でしかない。何の検証もせずに、数字がすべてを語っていると思うのは大間違いです。私の場合、来店する1日2600万人の顧客の日々のデータを見ながら、消費者の心理が今どんな状態にあるかを感じている。私は経済学者でもアナリストでもありませんから、皮膚感覚だけでいっているのです。それが多くの場合、当たっているのです。
誰でも日々の仕事の中で顧客の本当の姿を実感できるはずです。この皮膚感覚を大切にし、自分なりに仮説を立て、結果のデータで検証する。
この習慣をつければ、世に出回るデータや見当違いな分析に振り回されずにすむでしょう。
(06年4月3日号 当時・会長兼CEO 構成=勝見 明)
小宮一慶氏が分析・解説
鈴木氏は人間の心理を見抜く能力に実に長けている。衣類を5000円の買い上げ金額ごとに1000円で下取りする「キャッシュバック・キャンペーン」。ほかの量販店では7割引きも珍しくないのに、この実質2割引きになぜ人が押し寄せるのか。人間誰でも現金を手にするほうが嬉しい。それに加えて、タンスから不要な服がなくなればエコにもつながる魅力も大きかったのだ。
鈴木氏はエコノミストたちが使う官製データを鵜呑みにしない。1日2600万人もの来店客がもたらす日々のデータから仮説検証を繰り返す。そこで物をいうのが、長年の経営で磨いた「皮膚感覚」なのだ。
それはコンビニの利便性向上にも活かされている。
セブン-イレブンの店内にATM(現金自動預払機)を設置しようという発想は、金融関係者からはまず出てこないだろう。ATMは金融機関の店舗内にあるものとの発想から抜け出せないからだ。また、現金の管理や安全性などから「できない理由」をどうしても考えてしまう。
とはいえ、当初社内外から「素人がやってもうまくいかない」「儲けにならない」などの反対意見が出たはず。それを跳ね返せたのは、コンビニの本質的な役割が顧客の利便性向上にあることを見抜き、半歩先の顧客ニーズを考え続ける鈴木氏だったから。もちろん事業に対する全責任を負う覚悟を持って臨んでいるので、社員も最後には惜しまずに力を注ぐようになる。
1957年、大阪府生まれ。京都大学卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現職。『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』など著書多数。