相手を知る
まず、タフな交渉相手だという評判を額面どおりに受け取らないことだ。「一般的に、人は相手の手ごわさを過大評価する」と、ディークマンは言う。交渉の場を決めるというような比較的小さなプロセスにおいて、相手を一種の予備交渉に誘い込んでみよう。そこで、相手がどの程度融通が利いて、どの程度好意的か、感触をつかむのだ。
恐ろしい吠え声の陰で実は震えている張子の虎がどれほど多いことか。ベイラー大学(テキサス州ワコ)経営学教授、ブレイン・マコーミックは、ある中小企業の社長の例を挙げる。この社長は大家と交渉して駐車スペースを増やしたい思っていただけでなく、訪問客の車を大家がレッカー移動させるのをやめさせたいとも思っていた。そこで彼は、近隣の他の大家に話を聞いてまわった。彼らは概して譲歩する準備があり、企業テナントから訴訟を起こされるのをひどく恐れていることを知る。彼は強気に出ることにして、大家との次の交渉の冒頭で、裁判所に提訴する用意があるとほのめかした。すると大家はすぐに譲歩したのである。
以前にも交渉したことのある相手の場合、相手の強硬な言動に真正面から切り込むのが最も効果的なことがある。「相手の言動を『それは脅しだ』と非難すると、通常、相手はそれをやめる」と、ボストンのコンサルタント会社取締役で、ハーバード・ネゴシエーション・プロジェクトのシニア・アドバイザーも務めるマーク・ゴードンは言う。
誤解が相手の強硬姿勢の原因になっていることもある。たとえば、新規契約交渉でサプライヤー側が取り付く島もないような態度に出てきた場合、それはメーカー側の担当者が自分のことで上司に苦情を言われたと思い込んでいるためかもしれない。問題を感じたら、それについて話すことで誤解が解け、交渉が円滑になることもある。
1対1の時間を減らす
相手が本当に手ごわいとわかっている場合には、相手と一緒にいる時間を減らすことを考えよう。「面と向かって脅しをかける機会を相手になるべく与えないようにせよ」と、ペンシルベニア大学ウォートン・スクール教授で、『無理せずに勝てる(Bargaining for Advantage)』の著者、G・リチャード・シェルは言う。できるだけ他のチャンネル、たとえばメールや電話などで交渉を進めるようにもっていこう。
また、応援を頼むのを恐れてはいけない。手に負えない相手だと思ったら、上司や同僚に加わってもらい、相手側にも複数同士の交渉を提案しよう(もっとも、相手側の誰が交渉相手の通常の態度を最も弱めてくれるかを、まず調べる必要がある)。