話をする前からすでに答えを決めているような相手を説得するにはどうするか。自分の主張をいくら洗練させても、こういう場合は効果がない。上手なコミュニケーターは膠着状態においてこそ相手の立場に立って物を考えるのだ。

職場ではしばしば、すでに考えが固まっている人たち、自分の考えとは事実上、正反対の考えを固守する人たちと相対する。自分は自分の考えを、相手は相手の考えを主張して、どちらも頑として譲らない。この膠着状態をチャンスに変えて相手をこちらの視点に引き寄せるには、どうすればいいのだろう。

モチベーションと説得についての専門家は、この難しいゲームで成功するには次のようなステップが有効だと言う。最初の、そして最も重要なステップは、相手をよく知ることだ。

相手を知る

「人を説得するには、自分の話の内容を相手に理解させることに時間とエネルギーを注げばよいと、ほとんどの人が思い込んでいる。だから、事前の準備は話の中身を練ることが中心になる。しかし、本当に必要なのは、まず相手の立場を考慮する姿勢だ」と、バージニア州アーリントンの経営コンサルタント、リック・マウラーは言う。

「ピーター・ドラッカーが、『コミュニケーションは話し手ではなく聞き手の頭の中で生じる』という意味のことを言ったことがある。上手なコミュニケーターが目指すべきは、自分の口から出るあらゆることを、聞き手の頭の中にすでに存在しているものと関連づけることだ」と、ニューヨークを拠点に活動しているコミュニケーションの専門家アン・ミラーは言う。

「人は記憶と経験の集合体であり、そうした記憶や経験を通じて世界を把握し、感覚を発達させ、頭や心に入ってくる新しい情報をろ過する、ということを理解する必要がある。最も巧みなコミュニケーターは、この事実を理解し、アナロジー(類比)やメタファー(比喩)を使って共通の理解と同意に達することによって反対を乗り越える」