マスメディアよりも宣伝効果があるのは
自分の行動を理解してもらう、支援を集める、品物を売る……。人に広く伝えていくほどに大きな成果が出るのは、どんなビジネスにもあてはまるだろう。自分のアイデアを広めたり、その存在を知らせたりすることは、購買や行動を促すことにもつながるものだ。
ご存知の通り、最近まで情報伝達の核となってきたのはテレビや新聞などのマスメディアである。巨額の宣伝広告費をかけて人々の生活に入り込み、販売網を獲得する。製品が売れればその利益でまた新たな製品を開発し、さらに大きな宣伝を仕掛けていくという仕組みだ。
ところが、この手法に変化がみられるようになった。巨額の経費を投じても、そもそも興味のない人に働きかけたところで、その人にはまったく広告がきかないどころか、ほぼ目にも入らない。以前よりも多様なメディアが生まれ、それぞれがターゲットの視聴者にぴたりとはまる情報をプッシュして提供し始めたため、よけいにマスへの宣伝効果が薄まってしまうのだ。たとえばネットで商品にアクセスすれば、自分の画面には次々に類似品が現われるし、興味があるものをその場で購入できるようになる。
魚がいないところにまき網をするよりも、はっきり魚が見えるところにきちんと1本の糸を落として確実に吊り上げる。「欲しい人がいる」ところに働きかけたほうが、確かな効果があるというわけだ。
パーミッション・マーケティングで知られるセス・ゴーディン氏は、効果的なのは「興味を示す人たちに対して売ること」であり、さらには「この人たちが友だちに伝えてくれる可能性がある」とTEDで語っている。たとえば、スティーブ・ジョブズのプレゼンがいい例だろう。130カ国の人達が2時間もの間、彼のプレゼンという名の“コマーシャル”を見ていたのは、アップルの商品、ジョブズ、あるいは彼のプレゼンに興味のあるからである。だからこそ、好意を持ってその内容を広めてくれただろう。「ジョブズらが成功したのはたくさん広告をしたからではなく、目立つことによるのです」と言う。
ジョブズのプレゼンが目立った理由のひとつに、必ず人が驚き、誰かに伝えて“自慢したくなる”キャッチーなフレーズ、新しい機能などを盛り込んだことがあげられるだろう。「すごいんだ」と人に伝えたくなる気持ちを起こさせることが、広く伝わっていくポイントである。そこから生まれるのは注意を引き、関心を持ってもらい、欲しいという欲求を起こし、記憶に残し、行動をしてもらうという流れだ。
これがまさに消費行動の好ましい心理プロセスのモデルだろう。まとめると、次のようになる。