グロービス経営大学院学長
堀 義人

【堀】政治が動きにくかった理由を、宮内さんはどう分析しますか。

【宮内】医療制度について言えば、自民党の厚生族が岩盤を支えるほうへ回っています。厚生族が何人いるのかといったら、コアは3~5人です。数百人中のそれだけの人数が反対と言ったら、自民党は全部反対になる。ほかにも文科省なら教育族、エネルギーならエネルギーの族議員がいて、改革を阻止しています。本来、議員は“law maker”であり、規制改革も国会がやるべき仕事です。ところが、そのお手伝い役のわれわれ民間人がいつのまにか主役になって、そうした族議員たちとやりあわないといけない。この逆転現象は、やはりおかしいです。

【堀】安倍政権にはlaw makerの自覚を持つ改革派が多いので、いよいよ岩盤を崩せる雰囲気が出てきたと思います。ただ、宮内さんは「行政だけではなく、民間も抵抗する」と言われています。これはどういうことですか。

【宮内】金融ビッグバンのときに、われわれが「世界の趨勢を見ても売買手数料は自由化すべきだ」と提案したら、友人だと思っていた証券会社トップの方々から「宮内さん、あなたはなんてことをするのか」と猛烈な抗議を受けた。当時の証券会社は株式売買の手数料で大きな利益を得ていましたから、それは死にもの狂いの抗議でしたよ。実際、手数料が自由化されネット証券が参入してきたら、手数料が数十分の1に下がって、儲からなくなった証券会社は再編を余儀なくされました。いまも当時のことで怒っている人がいるかもしれません。おかげで、私は証券業界で多くの友達を失いました(笑)。

【堀】ただ、自由競争になって手数料が下がるのは、投資家にとっていいことですね。既得権益を失う人以上に、恩恵を受ける人は多かったはずです。少数の友人を失った代わりに、たくさんの新しい味方ができたのでは?

【宮内】ところが、そういう声はあがらないのです。投資家など一般の人たちは大賛成かと思えば「規制改革会議は大反対を押し切ってやろうとしている。強引で嫌だな」と逆に冷たい視線で見られました。オリックス社内でも、「おたくの社長は何をやっているのか」と取引を止められたという話をたくさん聞きました。社員には「ごめんなさい」と言うしかない。応援団はほとんどいなかったというのが実感です。

【堀】業界、行政、政治家、そして国民。まさに四面楚歌ですね。恩恵を受ける人たちまで賛成の声をあげない状況は、どうすれば変えられるでしょうか。