既得権と表裏一体の岩盤規制がアベノミクスによる改革を阻んでいる。どうすれば打ち破れるか。“ミスター規制改革”宮内義彦氏と、若手財界人・堀義人氏が語り合った。

なぜ政治家は本気にならないのか

オリックス シニア・チェアマン
宮内義彦

【堀】宮内さんは過去十数年にわたり、規制改革会議議長などとして日本の規制改革をリードしてこられました。先日の「G1経営者会議」で当時の経験を話していただきましたが、規制改革を進めるための方策を改めてお聞きします。宮内さんが戦ってきた岩盤とは、どのようなものでしたか。

【宮内】日本経済が1960~90年ぐらいまで伸び続けた間に、多様な分野でそれぞれの制度がつくられ、その制度の中で生きる人々ができてきました。成長中はよく見えませんでしたが、気がついたら、それらが既得権益になっていた。それが、いわゆる岩盤です。

規制改革の基本は、みんなが公平に競い合える市場を整え、切磋琢磨しながらより良いものをつくっていくことです。しかし、既得権益を持っている人たちに「あなた方も市場経済の中で一緒に切磋琢磨しましょう」と言うと、「こちらは社会的要請に基づいた制度。市場原理を持ち込まれたら困る」と返ってくる。たしかに社会的に守らなくてはいけない部分もあるでしょう。そこには手を付けず、経済的な部分だけでもイコールフッティングにすればいい。ところが、そんな正論を通そうとするだけで大変な抵抗が起きる。

それには、既得権益と行政とが固く結びついていることも影響しています。たとえば農業を経済面から改革しようとすると、「農業は農村の福祉政策でもある」「文化政策として農業を守れ」という反発が起きるのです。

【堀】行政の対応については、先日まで産業競争力会議の議員を務めていたサキコーポレーション社長の秋山咲恵さんが興味深い話をされていました。会議で農業委員会の見直しを訴えたら、農水省の官僚から「そこは聖域だ」と怒鳴られたとか。しかし数カ月後に会うと、逆に協力的になっていたといいます。その間に何があったのかというと、政治がリーダーシップを取って改革の方針を打ち出していたのです。つまり、既得権益と行政との結びつきも、政治家しだいで変わるんだと。

【宮内】政治が動いてくれれば社会システムは変わります。たとえば金融ビッグバンがそうでした。当時は橋本龍太郎内閣で、橋本さんが「このままでは諸外国に置いていかれる」とイニシアチブを取った。また、小泉純一郎元首相が郵政という堅い岩盤に体当たりしました。最近では教育分野で国公立大学の学長の決め方や教授会のあり方を変えましたが、これは行政を下村博文文科相が動かして実現した。ただ、このように政治家がイニシアチブを取って岩盤に穴を開けた例は珍しい。