「あなたは選ばれた人です」
最近はこうした手口がより巧妙化した。鈴木氏が続ける。「上司など会社側は退職勧奨につながる言葉を一切口にしない。代わりに人材会社が間に入ります」。
どういうことか。
「まず会社は『スキルアップのため』といった業務命令で、社員を人材会社に行かせます。立場は出向や業務支援などさまざまですが、そこで事実上の退職勧奨が行われます」
人材会社では「キャリア志向性」や「人生の根っこ探し」などと称した適性診断テストを受けさせられる。テストでは一問一答式の質問にYES、NOで答えるが、最終的な結論は「会社の外に活躍の場を求めたほうがいい」と決まっている。
時には「厳しい環境の中では、いろんな能力開発をしなければならない。あなたは選ばれた人です」とホメ殺しのトークを駆使し、たとえば本人がSEなら「現在の業務に加えて営業力も身につけましょう」と言い、営業職なら「ロジスティクスを知っておく必要もある」とおだて上げる。
大手電機メーカーの企画部に勤務していた45歳の課長は、人材会社に出向後、週に1日このテストを受けて、残りの日はクレーム処理をさせられた。適性テストでは毎回「営業に向いています」「これまでの仕事よりもこちらのほうが」などと言われ、結局転職したという。この転職先も人材会社が斡旋する仕組みになっている。
ほとんど全社員を診断テストの対象にした会社もある。かつてマンション販売で名を売った大手不動産会社だ。実際には短期間でテストを終える人と延々受けさせられる人に分かれるが、これだと名目上は全員が対象だから、会社側は狙い撃ちの退職勧奨ではないと主張できるのだ。