部下との対話に2割の時間をかける
ROIを高めるため、リターンの低いものには徹底して時間をかけない主義の山本氏だが、一方で、大きなリターンが見込めるところには思い切った時間の投資をしている。それは部下とのコミュニケーションだ。
「チームで何かを始めるときは、それこそいくらでも時間を割いてメンバーと話をします。それは、意識にずれがあるままものごとを進め、あとになってそれが原因で問題が発生した場合、解決するのにものすごくコストがかかるからです」
山本氏には苦い記憶があった。あるとき部下にプレゼン用資料の作成を頼んだところ、当日できあがってきたのは自分の意図とまるで違うシロモノ。結局、顧客に頭を下げ、プレゼンを延期してもらう羽目になった。
それゆえ、半年前にチームリーダーを任されたとき、同じ失敗を繰り返さないために、コミュニケーションには十分な時間をかけると決めたのだ。
「メンバーには私の哲学や考え方を全部さらけ出しています。私が何を考えているかという『判断基準』がチームに浸透すれば、メンバーは私のイエスを待つことなく、自分で考えて、物事を進めてくれるのです」
部下との対話にたっぷり時間をかけることが、結果的には時間短縮につながっているのだ。現在、仕事全体の2割は部下との会話に充てているという。
「メールやチャットだけでは、微妙なニュアンスまではなかなか伝わりません。それに、文字だと、こちらが軽い気持ちで書いた『これやっておいてください』が、相手には有無を言わせぬ命令に感じられて、関係がぎくしゃくするようなことが簡単に起こります。だから、フェース・トゥー・フェースがコミュニケーションの基本なのです」
対面でのコミュニケーションは、営業先にも心がけている。その重要性は顧客から学んだ。信頼関係ができていると山本氏が思い込んでいた得意先の担当者だ。日常の連絡はもっぱらチャットで取り合い、頼みごとは何でも聞き入れてくれていた。それに慣れた山本氏はほとんど訪問しなくなっていた。そんな頃だ。担当者が「最近、山本さんの対応に不満がある」ともらしているのを人づてに聞いたのだ。山本氏は顧客に甘えていた自分を恥じたという。
「対面でのコミュニケーションがあって初めてメールやチャットでの連絡がスムーズに機能するものだと気付きました」
ITと対面を見事に使い分ける山本氏の時間術、実はまだ完成形ではないという。
「私が目指しているのは、いかに快適に時間を使うかなのです。もっといい方法が見つかれば、躊躇なく取り入れていきますよ」
型にとらわれず、費用対効果をひたすら追求するからこそ、日々進化していく。これこそがROI時間術の神髄だといえるだろう。