ソーシャルメディアは「人脈」を可視化した。だが、それは本当に役立つものだといえるのだろうか。無用な「つながり」はむしろリスクとなる──。

「いいね」だけでは仲間はつくれない

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2種類の「つながり」の違いを意識する

自分の人的ネットワークが自分を規定する。友人、仲間は選べ――。近著『君に友だちはいらない』で、私はこう書きました。現在の日本は、かつてなく「仲間づくり」が重要な時代となっています。仲間とは、SNSで絡んだり、「いいね!」をするだけの友だちではありません。共通の目標の下で、苦楽をともにできる仲間との「チームアプローチ」が求められているのです。

その理由のひとつが「グローバル資本主義の進展」です。

あらゆる業界で競争が激化し、ビジネスモデルの耐用年数がどんどん短くなっています。このため商品だけでなく、「人材のコモディティ化」が進んでいます。特殊な能力をもった一部の人を除いて、ほとんどの人は、より給料の安い人に置き換えられてしまう。企業の業績はよくても、働く人々の生活は変わらない。こうした「人材のコモディティ化」を乗り越える方法として、私は「仲間づくり」を提唱しています。

まず注意してほしいのが、「人脈」と「仲間」の違いです。たとえばフェイスブックは「つながり」を可視化する強力なツールです。ところが、「人脈づくり」はできても、「仲間づくり」にはほとんど役立ちません。

1970年、マーク・グラノヴェッターという社会学者が282人のホワイトカラー労働者を対象に、就職活動中、どのような人とコミュニケーションしたかについて調べました。その結果、自分のもっているリソースやバックグラウンドとまったく異なる人とつながったほうが大きな価値が生まれる、ということがわかりました。グラノヴェッターはそのつながりを「ウィークタイズ(弱いつながり)」と名付けています。

最近は、この「弱いつながり」の影響なのか、フェイスブックの「友だち」の数を競う風潮があります。しかしこれは誤解です。「弱いつながり」の要点は、転職という非連続な変化では、自分と似通ったバックグラウンドの人に相談するよりも、自分の業界と関係のない人に相談したほうがいい、というもの。フェイスブックで、同じ会社や同じ大学の人と「友だち」になっても、それは「弱いつながり」とは呼べません。

グラノヴェッターの調査は約40年前のアメリカで実施されたものですが、最近行われた関西大学の安田雪教授らの研究では、日本社会でも「ウィークタイズ」が有効であることが証明されています。20世紀までの日本では、同じ業界とのつながりが有用だったかもしれません。しかし21世紀を迎え、日本においても組織のあり方や労働環境が変わり、業界を超えた転職が当たり前になったのです。