5.尊敬する先人から学び取るべきものは?
善術を設け前緒を継紹せずんばあるべからず。
獄中における松陰の最大の心配事は、自分の死後、尊王攘夷の火が消えてしまうのではないかということでした。『留魂録』でも尊王攘夷運動について書いているのがこの言葉です。これは「もっといい方法を考え、先人の考えを継承せねばならない」という意味です。
松陰らしさがよく表れているのは、「前緒」という表現でしょう。松陰は尊王攘夷運動の思想的リーダーでしたが、思想そのものは松陰のオリジナルではありません。水戸学をはじめ先人たちの思想を引き継いだうえで、自分のものにしました。
「前緒」は現代でも重要なキーワードです。私たちは松陰のように高い志を持った人物に憧れます。ただ、自分も志を持とうとしたとき、どのように立てればいいのかよくわからないという人は多いはずです。現代はノウハウの時代であり、目標さえ定まれば、それを実現する方法はいろいろと調べられます。ただ、志を立てるノウハウはありません。それゆえ多くの人が「やりたいことが見つからない」と悩んでいるのです。
ならば、松陰のように「前緒」を引き継げばいいのです。昔は個別にノウハウを学ぶことは難しく、誰かに師事をして、その人物からすべてを学びました。志も、先生や自分が尊敬する人のコピーです。いまだって、それでかまわないはずです。オリジナルかどうかにこだわるのは小さなこと。大切なのは、あくまでも志の中身です。松陰がいったように、引き継いだものを改善し、次につなげることに意味があるのではないでしょうか。