女は「上書き保存」男は「別名にして保存」
恋愛においては、女は「上書き保存」で、男は「別名にして保存」。女は別れた相手をすぐに忘れて次の相手に切り替えるが、男はいつまでも昔の相手を忘れない――。
巷でよく聞かれる、このような男女の違い。いったいどの程度の信憑性があるのだろうか?
残念ながら、それを裏付けるような学術的なデータはない。「誰もデータをとって調べるということをしていない」というのが現状のようである。しかし、この「女は上書き・男は別名保存説」は、「自然選択による進化」という観点にたつと、なかなか説得力のある仮説として考えることもできる。ポイントは、男と女が、精子をつくる性と卵子をつくる性という根本的な違いをもつ点にある。
自然選択による進化というとむずかしく聞こえるが、要は、ある生物種の集団があったとき、より多くの子を残した個体の遺伝子や性質が後世に伝わり、子を残さなかった個体の遺伝子や性質は伝えられずに消えていく、ということだ。そして、このことから、「生物個体は、自分の遺伝子をできるだけ多く次世代に残すように行動する」という行動原則を導き出せる。なぜなら、自分の遺伝子をできるだけ残そうとする個体とそうしない個体がいた場合、後世により多く残っていくのは前者の遺伝子で、後者の遺伝子は世代を重ねるにつれ消えていくからだ。
さて、生物個体は自分の遺伝子をできるだけ多く次世代に残すように行動するのだが、この目的を達成するための方法はオスとメスでは異なる。なぜなら雌雄の間には、オスはほぼ遺伝子のみを含む小さな配偶子(精子)をたくさんつくる性、メスは栄養を豊富に含んだ大きな配偶子(卵子)を少数つくる性、という違いがあるからだ。
精子は少ないエネルギーで一度に大量につくることができる。従ってオスの場合、多くのメスと交配することで、子の数=次世代に残す遺伝子の量を増やすという戦略をとる。
一方、卵子をつくるには多くのエネルギーがいるので、一度にたくさんはつくれない。このためメスの場合、どんなに多くのオスと交配しても、できる子の数は自分のつくる卵子の数より多くなることはない。つまりメスは、多くの異性と交配することで残す子の数を増やす、というオス型の戦略をとることはできない。