中国への赴任が決まったときに退職を決断

「新卒者を採用する際に学生の学歴は関係ない、というのはタテマエだと思いますね。当社では学歴だけで判断し、採用を決めることはありえませんが、新卒の場合は判断する材料が少ないから、当然、学歴はみます。

その際、ポテンシャル(潜在的な可能性)を考えますね。この大学や専門学校だと、入社後、このくらいの実績を残してくれるのかな、と。ホンネでは、ほとんどの会社が新卒の採用時にこのようにみているはずですよ」

車陸昭・ケーエムケーワールド社長。

株式会社ケーエムケーワールド代表取締役の車陸昭氏(44歳)が、新卒の採用と学歴の関わりについて話す。

ケーエムケーワールドは2001年に創業し、現在、正社員は約70人。主にシステムインテグレーションやスマホのアプリケーション開発などをする。グループ会社に、メディカルソリューション事業をするプロ・フィールド(正社員数13人)があり、その代表も務める。創業直後から中国に進出し、上海に子会社も持つ。

車氏は1995年3月、法政大学法学部を卒業し、4月に音響機器メーカー・ケンウッド(現JVCケンウッド)に入社した。

就職活動をしていた頃は、バブル経済が崩壊し、数年が経った時期だ。不況により、多くの企業が採用者数を大幅に減らしていた。周囲の学生が苦戦をする中、早いうちに内定を得た。「100点満点の結果で、理想の会社だった」と振り返る。

「国際貿易や海外勤務などをしたかったのです。それができる会社だと思いました」

配属は、海外営業の部署だった。同期生は150人ほどで、同じ部署に配属された数人は東京外国語大学や慶應大学などを卒業し、語学に堪能な社員だったという。

「同期生は、入学難易度の高い大学を卒業した人が比較的、多かったように思います。人事部などは、学歴をある程度、考慮し、採用していたのではないでしょうか。新卒の場合は、キャリアや実績がまだないのですから、学歴を判断材料の1つにすることはやむを得ないことだと思います」

仕事や人間関係には恵まれていたという。上司からの人事評価は同世代の中で高く、等級(処遇)は早いうちに上がった。4年目を終えた1999年、海外勤務を打診された。行き先は、中国。

念願が叶った。だが、辞めることを上司に申し出た。悩み抜いた末の決断だった。課長や部長は、驚いた。車氏はそのときを思い起こし、説明する。

「部長は、怒っていましたね。『お前が中国で仕事をしたいと言うから、俺が人事部などと交渉したのに。この時期に辞めるなんて……』と。私は、『申し訳ありません』と繰り返すのみ。ひたすら、お詫びでした」