机の上、デスクトップを快適に


1階奥にある小説の書棚のスペース。高い天井と本棚が印象的だ。「360度本に囲まれた教会にしたかった。本の背表紙がステンドグラス代わり。夕暮れ時には天井の窓から夕日が差し込んで、茜色になるんです」(樋渡氏)。

こうした空間を自分のものとして、自宅の書斎で少しでも再現するには、実はセンスやオリジナリティ、クリエーティビティは不要。「くまモン」のクリエーティブディレクター、水野学さんも言うとおり、センスは知識の総体です。いいと思った場所をデジカメでバンバン撮っていって、少しでもそれに近づければいい。本に囲まれた空間が気持ちよければ本を積めばいいし、憧れてる人の机を見て文具やものの置き方をそのままパクればいいんです。

こうして気に入った空間をトレースするには、単にいいな、と思うだけでなく、その実現のための様々な工夫が必要になります。これが頭のよさに直結すると僕は思っています。快適さを目指して実現したその空間で仕事をすれば、空間と能力の掛け算でアウトプットが出せるようになりますよ。

書斎がないなら、机の上で実現させる。それもなかったら、パソコンのデスクトップ。僕はiMacの壁紙に、陶芸家で人間国宝の中島宏さんの作品を使っていますが、そういうのでもいいんです。徹底して居心地よくすればいい。すると、じゃあ次はマウスにこだわってみようか? というふうに、本当に快適なことならどんどん増殖していくものです。

今の僕の家は築40年の古アパート。もうすぐ立ち退きで出ていかなきゃならないんだけど、すごく快適な空間ですよ。図書館と似せるために窓のカーテンを外して、全部木のブラインドにしたんです。そうすると、部屋全体がここに近いウッディな雰囲気になりました。それをだんだん家全体に広げていっています。

僕の奥さんも「快適」が大好き。そういう意味では同志なんですが、ちょっと趣味が違うから、互いにせめぎ合いや駆け引きがあります。僕の力不足でなかなか“境界ナシ”とはいきませんが、家具なんかはもの凄く議論してから買いますし、そういうことを繰り返すことで無駄な知識・教養が増え、結果的にセンスが増すんじゃないですか。

今は多くの人が、何が自分にとって快適かすらわからなくなっている。だからこそ、自分が体験するってことが大事なんです。快適な場所に来て、もう一度学び直すことが大事です。人間はしょせんアナログですから、五感を使わないと何が快適かはわからないし思い出せない。「この図書館に来てくれ」って僕が言うのはそこなんです。ここにいることじたいで、僕は頭がよくなっていると思います。説明しても始まらない。感じてほしい。一度見たら、批判してた人がコロッと変わりますもの。

自分の快適さには頑固であり続けたい。そこは大事。絶対に大事。僕はまず妥協しません。

佐賀県・武雄市長
樋渡 啓祐
(ひわたし・けいすけ)
1969年、佐賀県武雄市生まれ。東京大学経済学部卒。総務庁(現総務省)入庁。2005年退職、06年武雄市長当選。14年4月に3選。著書に『沸騰!図書館』。
(構成=西川修一 撮影=藤原武史)
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