年間5115億円の医療費の削減効果

また、65歳以上のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者1898人を肺炎球菌ワクチン単独接種、インフルエンザワクチン単独接種、2つのワクチン併用群、非接種群の4つのグループに分けて比較した米国の研究では、非接種群を100とすると併用群の肺炎入院率は37%、肺炎死亡率19%で最も低かった。高齢者が入院すると、肺炎が治ったとしても認知症や寝たきりの原因になりやすいので、重症化や入院が避けられるメリットは大きいわけだ。

東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門の渡辺彰教授は、「65歳以上の高齢者や心臓、呼吸器などに病気のある人は、肺炎を予防するためにも、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンを両方接種してほしい」と強調する。

今年度、肺炎球菌ワクチンの定期接種の対象になるのは65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳以上の高齢者、そして、60~65歳未満で心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害がある人だ。ただし、これまで23価肺炎球菌ワクチンを接種した経験のある人は対象外で、定期接種の対象は初回の人のみ。5年間は毎年5歳刻みで定期接種の対象となり、その後は、65歳になる年に接種することになる。厚生労働省は、65歳以上の人が全員接種すれば、ワクチン接種にかかる費用を差し引いても年間5115億円の医療費を削減する効果があると予測する。

このワクチンの費用は医療機関にもよるが、自費で接種すると一般的には8000円前後かかる。定期接種化されたことで、これまで成人用の肺炎球菌ワクチンが公費助成の対象になっていなかった市区町村でも助成が受けられる可能性が高く、1000円~6000円程度の自己負担(生活保護世帯などの人は自己負担なし)で受けられるはずだ。市区町村によっては定期接種対象年齢の人以外にも助成をしているところもある。公費助成の方法と金額は市区町村によって異なるので、市区町村の予防接種担当窓口に問い合わせていただきたい。今年度に定期接種年齢に該当する人は、来年3月31日までの5カ月の間に接種しなければ公費接種の対象にならない場合も多いので少し慌ただしいが、インフルエンザワクチンと一緒に接種を受けるとよいだろう。