群馬で育む維新の土壌

【窪田】今、田中さんは後進の育成も熱心になさっていると伺っています。地元で教室をひらかれていらっしゃいますよね。

【田中】はい。経歴や過去は関係なく、今何を考えどう行動を取るかですべては変わるということを知ってもらいたい、という思いで始めました。

地元の群馬は田舎です。刺激がありません。でも、そんな田舎にもいい子はたくさんいるのです。刺激さえ与えてあげれば、そこで芽を出す子もいます。その刺激の場にしようと、早稲田大学のビジネススクールの先生に毎月来ていただいて、「群馬イノベーションスクール」というビジネススクールの地方版を開催しています。例えばスターバックス元社長の岩田さんや、ユーグレナ社長の出雲さんにもご協力いただきました。普段あまり群馬には来ないような方々に、ほぼ手弁当で来てもらい講義をしていただいています。直接討論や、対話をできるので、生徒たちのモチベーションが目に見えて上がっているのがわかります。

【窪田】すばらしい活動ですね。何か変わったこととか手応えなどはありますか。

【田中】はい、以前とはまったく違います。維新前夜を群馬が迎えたかのような雰囲気ですよ。やはり自分の地元は好きですね。いまに至るまでは地元に育てられたという意識もあります。ですから地元に還元したいと思っています。

【窪田】JINSの店舗も群馬にたくさんありますよね。

【田中】群馬には8店舗あります。群馬でのメガネの販売シェアは4割近いので、おそらく一番なのではないかと思います。

【窪田】最初に販売拠点を設けたのは群馬なんですか。

【田中】いいえ、実は福岡なのです。前橋の店は5店舗目です。群馬で売れたのは、ブランディングが成功していたからかもしれません。はじめて前橋にお店をオープンした時は、すでに代官山にお店がありましたので、代官山のブランドが来たと言われたものです。チラシにも、「JINS代官山店」の情報も入れてみたりしました(笑)。

このような小さな成功がいろいろなところに散りばめられているからこそ、その後の大きなチャンスにつながっているのでしょうね。その1つでも欠けていたら現在は変わっていたと思います。

【窪田】逆にこれはまったくうまくいかなかったということはあるんですか。いまだから言えるけど、こういうものを開発してみたけど、メガネでもこれは全然ダメだったというのはありますか。

【田中】もちろんあります。小さいところでは山ほど経験しました。メガネでうまくいかなかったこともあります。それもとにかくいろいろなことにチャレンジしてきた結果です。われわれは「Magnify Life(マグニファイ・ライフ)」という言葉をブランドビジョンとして掲げています。マグニファイには顕微鏡で拡大するという意味があります。メガネを通じて人々の人生をより豊かにしたい。そのために、これからもチャレンジし続けます。

【窪田】目の見る機能というのは非常に重要ですからね。そこを豊かにできるというのは日常生活にもたらすインパクトは大きいですよね。

今回は、「目」つながりで対談をさせていただいたんですけど、はじめて田中さんにお会いしたとき、フェアな経営者でありリーダーでいらっしゃることに強い印象を受けたんです。人間は誰しも完璧ではないし、不得意な部分もある。そういう人間味を感じました。メガネで人々の生活をより豊かにするというビジョンのもと、グローバル展開や「JINS MEME」の完成を応援しています。同じ目の世界で私もがんばります。

窪田 良(くぼた・りょう)●1966年生まれ。アキュセラ創業者・会長兼CEOで、医師・医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学院に進学。緑内障の原因遺伝子「ミオシリン」を発見する。その後、臨床医として虎の門病院や慶應病院に勤務ののち、2000年より米国ワシントン大学眼科シニアフェローおよび助教授として勤務。02年にシアトルの自宅地下室にてアキュセラを創業。現在は、慶應義塾大学医学部客員教授や全米アジア研究所 (The National Bureau of Asian Research) の理事、G1ベンチャーのアドバイザリー・ボードなども兼務する。著書として『極めるひとほどあきっぽい』がある。Twitterのアカウントは @ryokubota 。 >>アキュセラ・インク http://acucela.jp
(柏野裕美=構成)
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