あなたの前に現れた交渉相手が、理屈も通じず、常識も備えていなかったとしよう。この場合、焦ったりひるんだりせず、相手がなぜそういう行動をとっているかを見極めるのが賢いやり方だ。
あなたが経験豊富な営業マンで、何年も順調に取引してきた会社との契約更改交渉に入ろうとしていると仮定してみよう。つい最近、相手の会社の担当者が、その会社に入って間もない人物、ジョーと交代した。
「私のルールを申し上げる」と、ジョーは挨拶もそこそこに切り出してくる。
「第一に、ミーティングは私のオフィスで行う。第二に、議題はこちらで決める。第三に、交渉する価格の幅はこちらから申し上げる。そして、交渉がまとまるまでは一切文書化しない」
あなたは困惑して答える。
「そちらでお会いすることはかまわないが、弊社の生産部門の人間と御社の事業部門のどなたかを同席させるべきではなかろうか。彼らの利益にもかなう合意にしなければならない」
「いや、私はそういうやり方はしない」と、ジョーはあっさり拒絶した。
あなたはこう説明する。「あなたの前任者はいつも事業部門の責任者を連れてきた。だから、いつも万事スムーズにいったのだ。われわれが話し合うべき問題は価格だけではない。こちらとしては、わが社の部品が御社固有のニーズを必ず満たすようにしたい」。
「それはあなたに心配してもらうことではない」と、ジョーは言い放つ。
あなたはすっかり仰天する。ジョーは交渉不可能な相手のようだ。
交渉の最も厄介な面の一つは、証拠や主張の理非では納得させられない相手に対処する方法を見つけることだ。不合理な行動や要求をやめさせるにはどうすればよいのだろう。本稿ではこの仮定の売買交渉を使って、強硬に見える相手や理屈が通じないような相手、あるいは完全に頭がおかしいように見える相手に対した場合のさまざまな可能性を分析していきたい。