優れた話者に必要な計算とは

まずはボトン氏が自身が意味する “俗物主義”とは次のようなことだと説明する。

「今日の主な俗物主義は、経歴を鼻にかけることです。パーティに行くと1分以内に 21世紀における代表的な質問をされます。『ご職業は?』と。答えによって、相手はあなたに会えたことを喜ぶか、または時計を見て立ち去る言い訳をします(笑)。

俗物の反対は母親という存在で、あなたの業績を気にせず一緒にいてくれます。でもほとんどの人は“時間”と“愛”や“敬意”の間に相互関係を見出して、相手の社会的地位を吟味した上で、それにみあった時間のみを割きます。こうして私達は経歴を気に掛け、身の回りの物質に気を配るようになるのです。物質を得る事が、感情に報酬を与える、そんな社会に生きているのだと思います。私達がほしいのは、物質でなく報酬なのです。

これは贅沢品への新しい見方を提示します。フェラーリに乗っている人を見かけたら『貪欲な人だ』ではなく『すごく傷つきやすく、愛に飢えた人だ』と思ってください(笑)。言い換えると、軽蔑でなく同情してあげて下さい」

「今日の俗物主義=地位や物質で人を測ること」だと話したあとに、それはどういうことを意味しているのか、日常の“たとえば”の具体例で説明する。“優れた話者”とされる人が共通して行なうのが、こうした “話を噛み砕く”作業であり、聞き手に「自分のことや身の回りのこととして関心を抱いてもらう」たとえ話にすることである。

人は「利己的である」というが、そうした概念を社会から植えつけられているからであり、固定概念から抜け出すことで幸せになれる、というボトン氏。逆に、私たちが人に話を聞いてもらうためには、まずはその“利己的な部分”である「自分のことに大きな関心を抱く」面から攻めていくと効果がある。さらには、「あなたたち」と聞き手を話の中に登場させ、「私たち」と話し手もその中のひとりとすることは、聞き手の注意を引く大きなポイントとなるだろう。