聞き手の神経を冴えさせる“自分の関与”

講演などで、話者が会場に向かって質問を投げかけることがある。あるいは「~をしたことがある人は?」のように問いかけられることで、自分に“何かが起こるかもしれない”と感じて、今までぼんやりとしていた頭が急に冴えた経験をお持ちの方は多いのではないだろうか。

人に何かを伝えるとき、相手を自分の話に釘づけにして説得力を高めるために、聞き手を話の共同作業者として巻き込み、注意力をあげる手法がある。聞き手はみな「自分も役割を担うかもしれない」と感じることで、これから起こることに耳を傾け、神経を研ぎ澄まさずにはいられなくなるわけだ。

「ストレスを味方にする方法」を提唱したケリー・マクゴニガル氏は、ボストン大学とスタンフォード大学で健康心理学に関する研究をしてきた。TEDのプレゼンの冒頭では、まずは聞き手に「昨年、多少のストレスを感じた人は?」と問いかけて、挙手を求めることから始める。いきなりつきつけられた質問に、聞き手は耳をそばだてる。「多少のストレスがあった人」を聞いたのだから、次には「ひどいストレスを感じた人」が挙手の準備をしようと感じるかもしれない。あるいは「あてられたら嫌だな」と思う人もいるだろう。いずれにしても、聞き手は一気に覚醒する。

さらにその前に「私はお伝えしなければならないことがある」と、その先を知りたくなるような問いかけをすることで話に引きつけ、「ストレスは病気の原因になると敵視してきたのは誤解だった」ことを告げ、聞き手に論点を実感させるような“作業”を提示して話への参加を促していく。

まずは、マクゴナガル氏の論点自体もおもしろいのでご紹介しよう。上手に観客を引き込みながら、こんな話を展開している。