「お客本位」のため消灯し沈思黙考
新たな世紀を迎えようとしていたころだ。昼休みに、食事は簡単にすませ、所属していた社長室の灯りを消し、まぶたを閉じることが増える。意識はしていなかったが、自然に、考えごとをするためだったようだ。
2000年、航空業界は、まさに「世紀の転換点」に差しかかっていた。2月の航空法改正で、長年続いていた「需給調整」と呼ぶ路線制限が終わり、運賃も認可制をやめて届け出だけでよくなる。競争を促し、サービスの多様化や新規参入を図って、利用者の便利さを高めようとの動きが進む。秋からは、首都圏に羽田、成田に次ぐ「第3の空港」を新設するか、羽田を沖合に拡張して滑走路を増やすか、議論も始まる。
全社の経営戦略を担う企画室が衣替えされ、社長室になって約1年。その企画室の主席部員に、整備部門から初めて就任して約5年がたつ。「自由化」が業界のキーワードとなり、時代は大きく動く。では、先を行く競争会社と同条件に並ぶには、何を、どうすればいいのか。48歳になる身への命題だった。
社長は「航空会社を完全な民間企業としてやり続けるには、もっと強くなる必要がある」として、組織のスリム化や航空券や路線など商品の充実を掲げた。それを受け、社内が「お客さんに喜んでもらういい商品をつくろう」と言い募る。でも、違和感があった。部下たちに「商品がいいか悪いかは、会社が言うのではなく、お客さんが決めることだ。社内で『これはいい』と言っても、お客さんが本当にそう思っているのかな?」と疑問を呈し、「それより、まずは自分たちの仕事の中でできることからやろう」と呼びかける。
暗くした部屋で考えるから、さめた物言いになるわけではない。大きなかけ声で、一気にでかいことを成し遂げようとしても、難しい。そんなに肩に力を入れることもない。できることを、1つずつ積み重ねていけば、道は拓けていく。昼休みに何度考えても、答えはそうなった。だから、部下に「どうしろ」とは言わない。日ごろの会話のなかで、何となく「ところで、こんなことを考えているのだけどね」と口にする。答えを求めていたわけではない。問題の提起でもあるが、自問自答のプロセスでもあった。