運航障害を防ぐ「部品」の早期交換

ANA社長 篠辺修
1952年、東京都生まれ。76年早稲田大学理工学部卒業、全日本空輸入社。2003年整備本部技術部長、04年執行役員・営業推進本部副本部長、09年常務取締役執行役員・整備本部長、11年専務、12年副社長を経て、13年から現職。

1992年9月、2度目の組合専従から復職し、古巣の整備本部管理室の企画課へ戻った。2年前に組合本部の委員長へ出るときに準備を整えた、油圧系の配管の「早期全面交換」が軌道にのった、と聞いた。ANAの整備部門に、新たな発想が根付いていく手ごたえを、感じる。40歳になるころだった。

飛行機の部品は、値が張る。できれば、工夫して長く使いたい。それが、長い間の発想だった。先をいく競争会社に比べ、収益や財務に大きな差があった時代だけに、当然だ。しかし、新人時代から担当した油圧系統は、配管の数がすごく多く、使っている間にどこかが疲弊し、ひびが生じて油漏れは起きる。そこで配管を交換するのが常だったが、油漏れは出発の遅れ、欠航、引き返しなど、運航に大きな影響を与える。飛行機の故障には多様な原因があるけど、常に上位5位に入っていた。

運航障害は、玉突き的に複数の便に遅れを出し、お客の期待を裏切るだけではない。整備に余分な人手がとられ、やり繰りが大変だ。漏れがひどいと、滑走路などの清掃も必要になる。メディアには、批判的に報道されがちだ。かといって、飛行機は超高額だから、予備機をそんなに持つことはできない。

本社の収益管理部門からは、何度も「何とかしろ」と言われてきた。80年代半ば、バブル経済が膨張する直前、飛行機の利用者は急増する気配をみせてきた。そこで、以前からの事例をたくさん引っ張り出し、調べた。でも、いつ、どこから漏れるかなど、予見のしようもない、とわかる。さらに調べていくと、一定期間使ったら、漏れがなくても配管や部品を全部取り換えてしまうしか予防のしようはない、と気づく。

20年使う飛行機なら、10年くらいで交換する。その前に漏れがあれば、その機体だけ換える。でも、10年たったら、運航に支障が出ないように計画し、次々に交換する。そんなプログラムを上司にみせた。部下たちは驚くが、米欧の機体メーカーに問い合わせても、対策はそれしかない、と答える。聞けば、他の航空会社のなかには、もう実施しているところもあった。

ただ、全面交換だから、一時的な出費が大きい。そんな発想はなかった社内から「そこまでやることはない」と反対論が出る。根回しは好きではないが、関係部署を回り、「長い目でみれば、このほうがコストも安くなるし、お客の評価も守れる」と説得した。ただ、あいまいな根拠で大胆な提案をしても、簡単に受け入れてはもらえない。第一、あいまいなまま踏み切れば、おそらく結果も危うい。調べ尽くした事例を整理し、年間の故障件数、運航への影響や換算コスト、報道のされ方なども集め、根拠を確立しておいた。