兵法を学ぶことで中国人を理解する

「中国人の土地や資源に対する個人私有の概念は日本とは大きく違い、あるのは集団で共有する概念。私有の権利概念は西側のように厳密ではありません。ですから尖閣諸島を一個人が私有することや石原前都知事が購入することに対して過剰反応することはありませんでした。しかし、日本が国有化するとなった途端、たとえ、日本側が個人私有を禁ずる意図であったとしても、中国人には、島を日本人すべてが所有するに匹敵する感触を引き起こしたのです」

安倍晋三首相。1954年生まれ。大学卒業後、神戸製鋼、秘書官を経て93年初当選。アグネス・チャンのファン。(時事通信フォト=写真)

国有の感覚が日本人と中国人では大きく異なるのだ。

「中国思想では国すなわち“公”の所有は“共”の所有でもあり、“天”の所有でもあり、そして“民”の所有にも繋がります。中国には『天に興亡あれば、つまらない底辺の自分でも関与する責任がある』とする『天下興亡、匹夫有責』という言葉があります。これが大規模デモを引き起こした原因の一つでもあったと思います。これまでの反日運動は、裏に国内課題の影響もあったと思いますが、今回の反日運動はちょっと違っていて、香港や台湾でも起きたことがそれを示しています」

ただし、救いはあるという。

「新政権下で、安倍首相は中国に対し表では強硬姿勢に見えても、兵法の専門家をブレーンに置いていることを期待します。中国とのつき合い方を心得て、実際は柔軟な外交をするのではないでしょうか」

中国の人口は13億人におよぶ。さまざまな問題は抱えているが、経済発展は続くだろう。

「欧米の主要国はこの巨大マーケットに食い込むため、兵法とグワンシの研究に取り組んでいます。最大の貿易国である日本の企業人が“中国人は理解不能”“なにをするかわからない”などと言っていたのでは話になりません。最低でも中国兵法とグワンシを学ばないと、中国人の複雑な考え方や行動原理は理解できないし、的確な対中戦略構築や上手くつき合うこともできません」

●中国人と上手につき合う5カ条

1. 「自己人」と「外人」では対応が違う
2. 「外人」に対しての行動原理は「兵法」
3. 身内になれば応対が劇的に良くなる
4. 贈り物は誠意として受け取られる
5. 家族を喜ばせる行為は高評価となる

古田茂美 
国際基督教大学大学院修了後、香港中文大学大学院などで経済学を学ぶ。1982年、香港貿易発展局に入局。2005年日本首席代表に就任。著書に『「兵法」がわかれば中国人がわかる』『グワンシ(GUANXI)』(ともにディスカヴァー携書)などがある。
(相沢光一=構成 高野長英=撮影 時事通信フォト=写真)
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