現在の中国人に根づいているのが孫子の兵法をより平易に一般化した「三十六計」。

「日本では三十六計というと“逃げるにしかず”しか知られていませんが、実はその前に35の戦わずして勝つための計略が並んでいるのです」

古田さんに中国ビジネスでありがちな三十六計の事例をあげてもらった。たとえば第四計の「以逸待労」。これは相手が疲れるのを待つという意味。中国企業と業務提携の話が進み、現地で契約の交渉・締結の運びとなった。ところが「書類が揃わない」「役員が体調を崩した」などといってなかなか交渉の席に着かない。待ちくたびれて帰国しようとしたときに手の込んだ接待つきの交渉の場が設けられた。やっと交渉できる喜びと接待につられ、相手に有利な条件をのまされるようなケース。

第二十八計「上屋抽梯」は文字通り相手を屋根に上らせ梯子を外してしまうという意味。中国企業側が、土地や人件費が安い魅力的な条件を提示し工場誘致を持ちかけてきた。その話に乗って工場を建設、稼働を始めたところで「従業員が賃上げを要求している。このままでは操業できないから、条件を見直してくれ」と言われる。大きな設備投資をしている以上、撤退はできないから、相手の要求をのまざるをえなくなるパターン。

このほかにも第十計「笑裏蔵刀」=「笑顔で近づいて相手を油断させて倒す」、第二十九計「樹上開花」=「うわべを飾って良いものに見せかける」、第三十一計「美人計」=「色仕掛けで相手をたらしこむ」などといった策略が並ぶ。

「三十六計は四字成語やことわざ、学校教育で中国人に溶け込んでおり、“外人”に対する無意識な行動原理になっています」