利益を求めるなら世界で勝負すべし

日立という社名の由来は、創業地の旧国名「常陸」に「太陽とともに立つ」という意味が掛けられているそうだが、創業者の小平浪平には「日本の技術で立つ」という心意気もあったのではないか。そう思えるくらい、昔の日立はもっと海外志向の強い会社だった。それが今や内向きになり、稼ぎ頭は国や地方自治体相手にシステムやソリューションを売る情報システム部門、いわゆるITゼネコンである。すっかりお上依存の会社になってしまった。マイナンバーの導入などで若干の需要はあるかもしれないが、日本全国の市町村でバラバラにやっていたシステムを県単位、全国単位でやるようになれば、ICTの仕事は減ってくる。国内向けのITゼネコンに将来性は望めないだろう。

売り上げ9兆円、総従業員数32万人、製造業でトヨタに次ぐ日本で2番目の巨大企業が利益を追い求めるならやはり世界で勝負するしかない。だがアメリカのGEやドイツのシーメンスといった世界的な重電メーカーと伍して戦うのは容易なことではない。時価総額で言えばGEが26兆円、シーメンスが12兆円に対して日立は3.5兆円に過ぎない。この違いは売り上げの差ではなく、収益率の差そのものが出ている。世界で勝負する体質づくりはこれから、ということになるだろう。

たとえば日立が海外展開を加速しているビジネスの一つに鉄道システム事業がある。車両の設計・生産や信号システム、運行管理システムなど鉄道関連事業の海外売上比率は14年3月期で35%。これを17年3月期には65%に引き上げる目標を掲げているが、売上比率を倍増させても、売上高ではシーメンスやフランスのアルストムなど世界の鉄道車両大手の5分の1くらいで足元にも及ばない。

電力事業においてもGE、シーメンス、アルストムといったメジャープレーヤーの戦いに日立が割って入る隙はほとんどない。今、アルストムの電力事業買収を巡って、GEとシーメンスの激しい争奪戦が展開されている。GEが買収資金約1.7兆円でオファーを出しているし、シーメンスはそれには及ばない1.5兆円だが、自社の鉄道事業をアルストムに譲渡する条件を提示している。シーメンスとアルストムの鉄道事業が統合されれば世界一の鉄道車両メーカーになって、欧州の鉄道市場はほぼ寡占状態になる。日立との差は実に10倍となってしまう。

いずれにせよ、世界の電力業界の勢力図を大きく塗り替えるアルストムの買収劇に日本勢は何とか食い込もうとGEとシーメンスのおこぼれをもらう交渉が始まっている。欧米勢に比べて利益率の低い日立や三菱重工では、1.5兆円もの買収資金を捻出することは容易ではない。